連載にあたって
20年ほど前になりますか。ダイナラブという社名のころですが、台北の民生東路の本社で書体作りのお手伝いを何年かさせていただいたことがあります。台湾はいまでもそうですが、人々の振る舞いや心情は穏やかで、外国にいるということを忘れさせるほど居心地がよかったのです。わたしが通っていた書体制作部門の若い方々は優しくそして努力家でした。
そして昨年11月、会社のご配慮で懐かしい旧友9人と再会することができました。9人はいまも在籍し書体作りに励んでいます。帰国してからこの懐かしい旧友と会社になにができるかを考えました。わたしは書体史研究と書体設計しかできません。書体にかんする文章を会社のサイトに連載させていただくことで、わずかばかりの感謝の気持ちを伝えることができるのではないか。この勝手な希望を会社は快く受け入れてくださいました。
連載がどれほど続くかわかりませんが、できるだけ長く、できるだけ広範囲に、書体について考えてみようと思っています。おつきあいください。
小宮山博史Profile
撮影:鳥海 修
国学院大学文学部卒業後、佐藤タイポグラフィ研究所に入所。佐藤敬之輔の助手として書体史、書体デザインの基礎を学ぶ。佐藤没後、同研究所を引き継ぎ書体デザイン・活字書体史研究・レタリングデザイン教育を三つの柱として活躍。書体設計ではリョービ印刷機販売の写植書体、文字フォント開発・普及センターの平成明朝体、中華民国国立自然科学博物館中国科学庁の表示用特太平体明朝体、大日本スクリーン製造の「日本の活字書体名作精選」、韓国のサムスン電子フォントプロジェクトなどがある。武蔵野美術大学、桑沢デザイン研究所で教鞭をとり、現在は阿佐ヶ谷美術専門学校の非常勤講師。印刷史研究会会員。佐藤タイポグラフィ研究所代表。著書に《本と活字の歴史事典》、《明朝体活字字形一覧》、《日本語活字ものがたり─草創期の人と書体》などがある。