ぬらくら第155回「二本の指標」
当時、ぬらくら子は駆け出しの組み立て工として光学機器メーカーで働いていました。
職場は特殊船舶が装備する業務用大型望遠鏡を組み立てる部署です。もちろん当時の望遠鏡は光学式のアナログ望遠鏡で、制御装置は歯車やカム、ワイヤーを組み合わせたものでした。
携わっていた望遠鏡の接眼部の中を覗くと、明るい視野の中に水平方向に方位を示す目盛と、基準になる指標が見えます。天地の方向にも目盛と指標があります。
方位と天地の指標には女郎蜘蛛の糸が使われていました。
女郎蜘蛛の糸一本は極細の糸が七、八本捻り合わさってできています。ここから10ミクロンメーター(1/100ミリメートル)ほどの太さの糸を取り出して指標に使用します。あいにく、その作業は全く別の部署で行なわれていたので、蜘蛛の糸をどのように指標に仕上げるのかを知ることはありませんでした。
なぜ蜘蛛の糸だったのか。
これだけの細い線を機械的に刻みつける技術がなかったのか、あるいは他の材料、例えばタングステンをこの細さに加工するにはコストがかかりすぎたのか。蜘蛛の糸とその糸を貼り付ける部品との熱膨張係数が関係してたような気がしています。
蜘蛛の糸の話ではなく、テーマは指標でした。
目盛を合わせる指標は女郎蜘蛛の糸がごくわずかな間隔(0.5ミリメートルか、もっと狭かったと記憶しています)で二本並んでいます。目盛はこの二本の指標で挟むように中央に合わせます。一本の指標に合わせるよりも二本の指標で挟んで合わせる方が、短時間にかつ正確に合わせることができるのだと教えられました。
人の目の働きは不思議です。
念のためにインターネットで蜘蛛の糸と指標に関する学術的な情報がないか探してみましたが、探しようが悪かったのか、関連する情報は見つかりませんでした。
タイトルの「ぬらくら」ですが、「ぬらりくらり」続けていこうと思いつけました。
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コンサルタント
mk88氏
PROFILE●1942年東京都生まれ。1966年桑沢デザイン研究所ビジュアルデザイン科卒。設備機器メーカー、新聞社、広告会社を経て、総合印刷会社にてDTP黎明期の多言語処理・印刷ワークフローの構築に参加。1998年よりダイナコムウェア株式会社に勤務。Web印刷サービス・デジタルドキュメント管理ツール・電子書籍用フォント開発・フォントライセンスの営業・中国文字コード規格GB18030の国内普及窓口等を歴任。現在はコンサルタントとして辣腕を振るう。
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