山中 慶 / YNK.Design×新海 真司×中村 陸人 対談
今回のダイナフォントストーリーは、プライベートでVRゲームを趣味とするダイナコムウェア書体デザイナー・中村 陸人をホストに、VRゲームでのフォント表示の最適解が気になっているという書体デザイナー・新海 真司がフォローする形で、従来のUIデザインとVRゲームのUIデザインの違いやVRデザインに適したフォントについて山中氏にインタビューを行いました。
逆に山中氏からも書体デザイナーに対して感じていることや気になっていることなどの質問が飛び出し、VRゲームのUIデザイナーと書体デザイナーが顔を合わせて対談という貴重な時間が実現しました。
山中:そうなんですね、ありがとうございます。山中と申します。
新海:新海と申します。VRゲームでのフォントの見え方などが気になっています。
山中:書体デザイナーの方々と話す機会はあまりないので楽しみです。
山中:きっかけは「東京クロノス」というVRゲームでWebサイトのデザインを相談されたことです。その時、ゲームのUIデザインもリソースが足りてないという話を聞いて、これまでPCゲームやブラウザゲームなどのUIデザインの経験があったため、立候補したのがVRゲームのUIデザインに携わるきっかけです。
中村:そうだったんですね。通常のゲームのUIデザインもVRゲームのUIデザインもされているとのことで、違いなどあれば教えていただけますか?
山中:スマートフォンやPCなどで表示される通常のゲーム画面は16:9の比率なんですが、一部のHMDでは処理の関係上、4:3の領域をキレイに描写し視野角の外側は解像度が低くなっています。実際にVRゲームも16:9の比率でデザインするのですが、処理の関係上、4:3の領域しかキレイに描写しておらず、それ以外の部分は解像度を落としているのが現実です。
中村:VRゲームをしているとき、確かに中央以外はぼやけていましたが、単純に人間の視界の影響で4:3以上の部分が見えにくいのだと思っていました。
山中:実は正面に対してのだいたい45度から外れた部分は、ぼやかして表示しています。理由として処理の負荷を下げるためもありますが、そもそもそれ以上は見えないこともあります。そうなると、いわゆる16:9のゲームのような右上にメニュー、左上にメニュー、右下にHPなどのパラメータなどのUIを作ってしまうと見えないため破綻してしまいますので、VRゲームのUIデザインは4:3の領域内に作ることになります。
中村:なるほど。
山中:それとVRゲームの特性なのですが、ヘッドマウントディスプレイ(HMD)を装着しているため、頭を動かすことで画面も追随して連動しまうため、視界から外れた部分にUIがある場合、いつまでも見えなくなってしまうので、やはり中央部分にUIを表示している必要があります。アドべンチャーゲームなど特に文字をたくさん表示するVRゲームでは、4:3という狭い領域の中で空中に浮いている文字を動的に表示しますのでエフェクトをかけられない可能性が高くなります。何もエフェクトをかけなくてもキレイで読みやすくてフトコロが広いシンプルなデザインのサンセリフ体といったフォントと相性が良いと思います。
山中:VRゲームを制作している人数自体も限られていますし、確かにこういった話はあまり表に出ていないかもしれません。最初にVRゲームのUI制作の案件を受けたとき、初めてのジャンルの案件ということで気合も入っており、メニュー画面やセーブ画面、会話シーンなどたくさんの画面を、比率の問題を知らずに16:9の比率で作ってしまって全部没になってしまった経験があります。この時、没の理由をメーカー側から紙で書いて説明してもらった後でヘッドマウントディスプレイ(HMD)も装着させてもらい、没になった理由を身をもって体感できたのは今思えばとても良い経験です。
中村:そうした経験が現在のVRゲームのUIデザインに活かされているのですね。VRゲームでテキスト表示をあえてしていないタイトルなどもあると聞きましたが、そのあたりはいかがですか。
山中:VRゲームは4:3という狭い領域で行われており、ユーザーがプレイする上でストーリーなどを邪魔しないUIデザインを心掛けることが重要だと思います。そのためテキストを表示しないという選択もとても合理的だと思います。テキストを表示しないことでストーリーへの没入感を深めることや、VRの弱点である視界が狭いことを補っていくことにも有用だと感じました。
山中:先ほど少しお話しましたがVRゲームでは解像度も通常のゲームに比べて低いため、ヒゲが多い書体などは読むのに疲れてしまったりしてプレイヤー側にストレスになってしまうので、書体についてはエフェクトをかけなくても読みやすいシンプルなデザインのサンセリフ体が望ましいと思っています。そのため、「VR UDフォント」をリリースしていただければ、デザイナー側としてもその書体を安心して使用できると思います。特に今だったら「メタバースUDフォント」とネーミングすれば、よりたくさんのデザイナーの方に刺さりそうな気がします。また、実際に書体デザイナーさんが選ぶオススメのVRゲームにオススメのフォントなどあれば参考にしたいです。
中村:「VR UDフォント」、「メタバースUDフォント」って良いですね。自分はVRゲームにオススメのフォントとして「青花ゴシック体」をオススメします。スクリーンでの表示に適する調整がされている書体なのでVRの表示でもはっきり視認できると考えられるので選びました。
新海:「VR UDフォント」、「メタバースUDフォント」は是非、社内でも検討したいと思います。自分は「金剛黒体」をベースに、かなを「青花ゴシック体」にした合成フォントをオススメします。ゆったりしていてかつ広すぎない漢字のフトコロが透過光での表示でも線を食いすぎなくて、かすれにくいと思うからです。
中村:実は学生時代に「作字」をSNSに投稿していました。文字という間口の広さと自分でも文字なら作れるかなと思ったのがきっかけですが、書体デザイナーとして日々勉強する中で、当時の自分が作っていたモノを見ると文字をデザインするという行為に対して少し安易に捉えていたかなと感じることもあります。書体デザイナーという職業に就けたきっかけでもありますし、「作字」自体は、文字と向き合い、文字を楽しむという素晴らしい文化だと思っています。
山中:書体デザイナーの方の視点を知ることができて参考になりました、ありがとうございます。それではデザイナーがフォントを加工することに関してはどのようにお考えでしょうか。
新海:デザイナーの方ならではのアイデアを重視して自由に使っていただけば嬉しいです。文字の書き順を考慮しない不自然な形やファミリーにコンデンス書体があるのに無理な変形を掛けたり、細い書体を無理やり太らせたりして使用されることに若干、違和感も覚えることもありますが、デザイナーの方にそういった加工をされなくても済むような良い書体を作っていきたいと日々思っていま す。
山中:勉強になります。自分も以前はあまり意識せず、フォントを加工してきた部分もあり、その後書体について色々勉強してみて、今だからこそ再チャレンジしたいなぁと思うデザインなどもあったりします。
新海:作り終えたデザインを直したくなってしまう衝動は “デザイナーあるある” ですよね。書体デザイナーもその点は同じです。それでは最後になりますが、VRゲームに限らず、山中さんが今後使用してみたい書体などあれば教えていただけますか。
山中:名刺デザインに「古籍黒檀」を使用してみたのですが、ああいった平体がかかった味のある書体があれば、今後使用してみたいです。あとは「ロマン雪」が好きなので「ロマン風書体」の新しい書体に欧文書体と組み合わせたりして使ってみたいですし、日本人が作る欧文書体などがこれから先ドンドン出てくると嬉しいです。また、スタンダードに近いけどデザイン性も感じられて第2水準までしっかりあるフォントは、今後も色々な場面でニーズがあるのではないでしょうか。
中村:自分も色々なお話が聞けてとても勉強になりました。本日はありがとうございました。
山中:こちらこそ中々ない書体デザイナーの方々とお話できる機会をいただき、勉強になりました。本日はありがとうございました。
Webサイト:https://ynk.design
Twitter:https://twitter.com/KY_creator
YNK.designはクリエイティブディレクターの山中を中心としたデザイン集団です。
ユーザーが求める体験に寄り添いながら、クライアントが伝えたいことを実現するためにさまざまなクリエイティブを企画から提案・デザインさせていただいております。〇クリエイティブディレクター・山中 慶氏 / YNK.Designに関連したダイナフォントストーリー一覧
今回のダイナコムウェア書体デザイナーとの対談記事とともに、クリエイティブディレクターとしての山中氏に言及したインタビュー記事も公開しています。
また、山中氏がクリエイティブディレクターを務めるVRゲーム「ディスクロニア」の「DynaSmart V」採用事例記事および、広告クリエイティブディレクターを務めるVRゲーム「ALTDEUS: Beyond Chronos(アルトデウス: ビヨンドクロノス)」の「DynaSmart V」採用事例記事も公開していますので、あわせましてお読みいただけますと幸いです。
1985年生まれ。長野県出身。Web制作会社を経て、フリーランスとして日本および台湾で活動後、ダイナコムウェアに入社。鳥海修氏が主宰する「文字塾」にて書体デザインを学び、「タイプデザインコンペティション2019」では本文用書体で入賞を果たす。
ダイナコムウェアの書体デザイナーとして「かな」を担当しており、「UD明朝体」「青花ゴシック体」「玉刻華宋」「金剛黒体 Bold 6ウエイト」「古籍真竹B」を手掛ける。
1996年生まれ。群馬県出身。大学在学中にフォント作りに興味を持ち始め、大学院ではタイポグラフィを専攻する。
大学院卒業後、ダイナコムウェアに書体デザイナーとして入社。
ダイナコムウェアの書体デザイナーとして主にデザイン書体の「かな」を担当しており、「龍門石碑体A」を手掛ける。
契約台数や契約年数に応じてお得な価格でご契約いただける、多言語フォントを含むダイナフォント全書体が使用可能な年間ライセンスです。 ゲーム&アプリ、印刷物、映像、放送、電子書籍、デジタルコンテンツ、Webデザインなど様々なコンテンツに許諾対応しています。
また、Webフォントクラウドサービス「DynaFont Online(DFO)」もご利用いただけます。
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