ぬらくら第140回「架空の動物」
「平安時代末期、近衛天皇がひどくうなされている夜が続いていた。ある夜、警護の者が東三条の森から黒雲が湧き出て清涼殿の上を覆いつくす光景を目撃する。
近衛天皇は弓の名手である源頼政にその原因をつかみ退散させるよう命ずる。源頼政は黒雲の中で動く陰に向かって矢を放つと、奇怪な声をあげ頭は猿、胴は狸、手足は虎、尻尾は蛇という妖怪「鵺(ヌエ)」が落ちてきた(以下省略)。」
鵺のような架空の動物は神話、民話、宗教などにはたくさん出て来ます。思いつくままに挙げると河童、八咫烏、人魚、ガルーダ、ケンタウロスやペガサス、未だ未だこんなものではありません。映画のゴジラにはゴジラを筆頭にモスラ、アンギラス、ラドンなどたくさんの架空の生き物が出てきます。水木しげるが描く「ゲゲゲの鬼太郎」に出てくる妖怪はいったいいくついるのか、多すぎて数えきれません。
中国・瀋陽にある太宗・皇太極と孝端文皇后の墓所、清昭稜で出会った獬豸は「豸」の字が面白くて記憶に残っています。
是非・善悪・曲直を見分けることができる伝説の「カイチ」という獣です。全身は濃くて黒い体毛に覆われ、頭の真ん中には長い一角を持つことから一角獣とも呼ばれたそうです。正義や公正を象徴するめでたい獣です。
「豸」は足の無い虫や背中の長い獣を意味する字で、本来は「廌」と書くようです。「廌」は「法治」の「治」と同じ音で、「法」の正字「灋」にも含まれていることから、中国では古くから「法治」の精神をカイチを使って表現したそうです。古代中国では法律を執行する役人が被った帽子にカイチが飾られ、カイチ冠と呼んだそうです。カイチの化身としてヒツジを飼育する寺院もあったようです。
中国や韓国、ベトナム、そして日本の寺院でも大きな石碑が亀の形をした台座に乗っているのを見たことはありませんか。この亀の形をした台座のことを亀趺(キフ)といいます。趺は石碑の台座のことです。台座の亀を贔屓(ヒイキ)といいます。そう、身贔屓や判官贔屓の贔屓です。贔屓は龍が産んだ九匹の子のうち龍になれなかった子龍のことで、亀の形に似た想像上の霊獣だといわれています。
架空の動物として誰もが思い浮かべるのは龍でしょう。なんとなくですが東洋のリュウは龍、西洋のリュウは竜と書いているような気がします。
鵺はなかなかのハイブリッドぶりですが、めでたい獣と言われる麒麟は頭が龍、角は鹿、全身は鱗と甲殻に覆われ、尾は牛に似て足は馬の蹄です。神の鹿だと言われているそうです。ハイブッドぶりでは鵺よりも麒麟の方が一枚上手です。
今までに目にした架空の動物のうち、そのハイブリッドぶりの頂点は中国・成都の青羊宮・三清殿の前にいた一角羊です。この一角羊は、清朝雍正時代に張鵬羽が北京から移設したもので、耳は鼠(子/ね)、鼻は牛(丑/うし)、爪は虎(寅/とら)、背は兎(卯/う)、角は龍(辰/たつ)、尾は蛇(巳/み)、口は馬(午/うま)、ヒゲは羊(未/ひつじ)、首は猿(申/さる)、眼は鶏(酉/とり)、腹は犬(戌/いぬ)、尻は猪(亥/い)、つまり十二支の動物全ての特徴をもっているといわれています。
読者の中に一角羊を超えるハイブリッドな動物をご存知の方がいらしたら、是非教えてください。
タイトルの「ぬらくら」ですが、「ぬらりくらり」続けていこうと思いつけました。
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mk88氏
PROFILE●1942年東京都生まれ。1966年桑沢デザイン研究所ビジュアルデザイン科卒。設備機器メーカー、新聞社、広告会社を経て、総合印刷会社にてDTP黎明期の多言語処理・印刷ワークフローの構築に参加。1998年よりダイナコムウェア株式会社に勤務。Web印刷サービス・デジタルドキュメント管理ツール・電子書籍用フォント開発・フォントライセンスの営業・中国文字コード規格GB18030の国内普及窓口等を歴任。現在はコンサルタントとして辣腕を振るう。
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