ぬらくら第134回『続・続「明朝体の教室」』
テーマは「カタカナはどう作ればいいのか その1」、講師は鳥海修 (* 1) さん、聞き手と司会進行は日下潤一 (* 2) さん、会場は阿佐ヶ谷美術専門学校です。
「明朝体の教室 第14回」セミナー開催の案内状にはこう書かれています。
近年、グローバル化や
情報系用語の増殖に伴って
カタカナ語の重要度が増している。
漢字やひらがなに混じり、
字形の基準がないと言われる
カタカナをどうデザインするのか。
ここでは、エレメントや字形によって
分類し、そのデザインを解説します。
受講者数を従来の半分以下の50人に減らし、教室を横長に使って受講者同士の間を広くとり、教室のあちらこちらでサーキュレーターを回し、教室の扉を開け放してのセミナーは全員マスク着用。
午後2時30分から休憩を挟んで午後5時30分まで、会場に流れる時間と空気がギュッと濃くなった3時間でした。
講師席の背面に据えられた大型のモニター上に鳥海さんが展開し、日下さんが疑問に思う点を質しながら、今までほとんど語られることのなかった「カタカナのデザイン」の要諦が明らかにされていきます。
初めに鳥海さんがモニター上に示したのは「カタカナのエレメント」と「字面のパターン」と題された表です。
「カタカナのエレメント」表は游明朝体Mを例に、全てのカタカナの一画々々を取り出し、それらを14のエレメントに分類した表です。
「字面のパターン」はそれぞれのカタカナが、その仮想ボディ (* 3) と標準字面 (* 4) に占める位置を (A) から (F) の6つのパターンに分類しています。
二つの表の分析と解説を続けながら「カタカナのエレメント」と「字面のパターン」はフォントによって異なるので、今回の説明は「游明朝体M」の表であることを忘れないようにと鳥海さん。
二つの表の分析が終わり、いよいよ本題です。
五十音順に従って「ア」から。
『アはパターン (A) で、エレメントの (4) と (10) で構成されています』と、こんな風にして「ノ」まで進む予定が、鳥海さんが伝えたいことが多すぎたためか「ト」までしか進みませんでした。
日下さんのグラフィックデザイナーとしての視点から鳥海さんに向けられた鋭い疑問と、鳥海さんの『どちらでも良いのはないか』と言いながらの解説、「ト」までの説明だけでも字形の基準がないといわれるカタカナのデザインの足がかりが見えてきました。
受講者からの質問に答える最後の30分を含めてあっという間の三時間でした。
セミナーの詳細は、その内容をまとめた冊子になって後日頒布 (* 8) される予定です。
次回の「明朝体の教室 第15回 カタカナ編 2」は少し先になり、9月上旬の開催になるようです。
興味のある方は主催者の告知 (* 8) を確認してみるとよいでしょう。対面での開催が実現することを願っています。
ここで、これまでの「明朝体の教室」を振り返ってみます。
第1回から第7回までは「漢字編 (* 5)」です。
講師は鳥海修さん、聞き手と進行は小宮山博史 (* 6) さん、会場は阿佐ヶ谷美術専門学校。
第1回のセミナー開催の案内状には以下のように書かれています。
書体に関わる人々が知りたいと思う造形状の技法は、
書体デザイナーの頭の中に蓄積されているだけで、
言葉をもって語られること、文章として綴られることはほとんどありません。
この連続講座は、明朝体の漢字・平仮名・片仮名・記号をデザインするとき、
個々の文字にどのような造形状の配慮・工夫が必要なのかを、
鳥海修と小宮山博史が対話と討論をとおして明らかにしようとするものです。
漢字編で取り上げられたテーマは次の通りです。
明朝体の教室1【漢字】1 錯視の回避
明朝体の教室2【漢字】2 錯視の回避と部分デザイン
明朝体の教室3【漢字】3 錯視が部分のデザインにどう影響するのか
明朝体の教室4【漢字】4 仮想ボディの中に点画をどう配置するのか
明朝体の教室5【漢字】5 書きにくい漢字はどうデザインすればよいのか
明朝体の教室6【漢字】6 書きにくい漢字はどうデザインすればよいのか―その2
明朝体の教室7【漢字】7 書きにくい漢字はどうデザインすればよいのか―その3
第8回から第13回までは「ひらがな編 (* 7)」です。
講師は鳥海修さん、聞き手と進行は日下潤一さん、インターネットを利用したオンライン配信で開催されました。
セミナー後にまとめられた冊子の表紙には次のような一文が添えれています。
日本語で書かれた文章の中で半分以上を占めるひらがな。
その設計の巧拙は、版面の見え方にに大きな影響を与えます。
ところが、個々のひらがなから設計要素を抽出し、それを解析する作業は、
これまで一度もされたことがありませんでした。
大きさをどうするか、ここの字形をどう作るか……。
教室ではすべてのひらがなについて、その設計の原理を探ります。
ひらがな編で取り上げられたテーマは次の通りです。
明朝体の教室8【ひらがな】1 <あ~お> ひらがなはどう作ればいいのか
明朝体の教室9【ひらがな】2 <か行・さ行> ひらがなのデザインは自由度が高い
明朝体の教室10【ひらがな】3 <た~に> 四角い文字と四角くない文字
明朝体の教室11【ひらがな】4 <ぬ~ほ> もとの漢字を意識する
明朝体の教室12【ひらがな】5 <ま~よ> 繋がる意識とリズム感
明朝体の教室13【ひらがな】6 <ら~ん> くろみの回避と字形の美しさ
「明朝体の教室」第1回から第13回までの講演内容をまとめた冊子と、『LETTERING/2020改訂版』小宮山博史著(私家版2001年刊の復刻)を入手することができます。
詳しい入手方法は人形町ヴィジョンズのサイトの「連続セミナー タイポグラフィの世界 (* 8)」にその案内が掲載されています。
* 1) 鳥海修(とりのうみおさむ)
書体設計士。
1955年山形県生まれ。多摩美術大学卒業。
1979年株式会社写研入社。1989年に有限会社字游工房を設立する。
ヒラギノシリーズ、こぶりなゴシック、游書体ライブラリーの游明朝体・游ゴシック体など、ベーシック書体を中心に100書体以上の書体開発に携わる。
2002年佐藤敬之輔賞、2005年グッドデザイン賞、2008年東京TDCタイプデザイン賞を受賞。
著書に『文字を作る仕事』(晶文社、日本エッセイスト・クラブ賞受賞)、『本を作る 書体設計、活版印刷、手製本──職人が手で作る谷川俊太郎詩集』(河出書房、共著)がある。
2022年1~3月には京都dddギャラリーで、個展「もじのうみ 水のような、空気のような活字」が開催された。
* 2) 日下潤一(くさかじゅんいち)
グラフィックデザイナー。
1949年香川県生まれ。1974年~1976年渡米。
帰国後、大阪にビーグラフィックスを設立し、1984年東京に移転。
装丁を手がけた書籍に『海峡を越えたホームラン』(関川夏生、双葉社)、『五体不満足』(乙武洋匡、講談社)、『孤独のグルメ』(久住昌之+谷口ジロー、扶桑社)などがある。
雑誌では「芸術新潮」(1989年~2014年)、「小説現代」(2005年~2018年)などのアートディレクションを担当。
「印刷史研究会」を小宮山博史らと結成・運営、その成果は雑誌「印刷史研究」(全8冊)、書籍『タイポグラフィの基礎』(誠文堂新光社)などにまとめられている。
* 3) 仮想ボディ
文字(フォント)をデザインする時に基準になる外枠のこと。
* 4) 標準字面
仮想ボディの枠内に占める文字の領域。一派的な書体では漢字、平仮名、片仮名の順に小さくなる。
* 5) 漢字編
弊社サイトに漢字編のレポートがある。以下を参照。
URL:https://www.dynacw.co.jp/fontstory/fontstory_detail.aspx?s=395
* 6) 小宮山博史(こみやまひろし)
書体設計士、書体史研究家。
1943年東京生まれ。國學院大学卒業。
1971年佐藤タイポグラフィ研究所に入所し、書体研究家・佐藤敬之輔に師事する。
書体デザインの成果は、平成明朝体、中華民国国立自然科学博物館中国科学庁表示用特太明朝体、韓国サムスン電子フォントプロジェクトなどがある。
書体史研究の成果は、『日本語活字物語──草創期の人と書体』(誠文堂新光社)、『明朝体活字字形一覧─1829年~1946年─』(文化庁)などに見られる。
2010年竹尾賞デザイン評論部門優秀賞、2011年佐藤敬之輔賞受賞。
弊社サイトに「活字の玉手箱」を掲載。
URL:https://www.dynacw.co.jp/fontstory/fontstory_komiyama.aspx
* 7) ひらがな編
弊社サイトにひらがな編のレポートがある。以下を参照。
URL:https://www.dynacw.co.jp/fontstory/fontstory_detail.aspx?s=468
* 8) 連続セミナー タイポグラフィの世界
URL:https://visions.jp/b-typography/
タイトルの「ぬらくら」ですが、「ぬらりくらり」続けていこうと思いつけました。
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コンサルタント
mk88氏
PROFILE●1942年東京都生まれ。1966年桑沢デザイン研究所ビジュアルデザイン科卒。設備機器メーカー、新聞社、広告会社を経て、総合印刷会社にてDTP黎明期の多言語処理・印刷ワークフローの構築に参加。1998年よりダイナコムウェア株式会社に勤務。Web印刷サービス・デジタルドキュメント管理ツール・電子書籍用フォント開発・フォントライセンスの営業・中国文字コード規格GB18030の国内普及窓口等を歴任。現在はコンサルタントとして辣腕を振るう。
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