連載コラム
2012年02月29日

ぬらくら 第17回 香寺詣で(2)

大きく開いた洞窟の入り口中央に水滴型をした高さ8メートルほどの岩が立っています。
異様な光景です。
これは洞窟入り口の天井から垂れる水滴でできた石筍のようです。
人の背丈くらいの高さから下の方に無数に垂れ下がる岩の形が稲穂に見えるところから、この石筍が稲作農家の篤い信仰を集めているそうです。
特に旧正月(テト)明けの香寺祭りには石段も石筍の前も洞窟の中もお参りに来た人達で埋まってしまうそうです。
石筍の左側から洞窟の奥に入って行きます。
石筍の裏側には子宝に恵まれると言われている鍾乳石があり、立ちきれないほど何組もの家族連れが熱心にお参りしていました。
足下の水たまりを避けながら洞窟内をだらだら下りていくと、奥の方でピカピカ光るものが回っています。
近づいて行くと祭壇に並んだご三体の仏像の光背が赤く青く光りながらクルクル回っています。
イルミネーション仕掛けの光背を頂いた仏像は初めてです。
この仏様のありがたみが薄れて見えてしまったのは日本人だからでしょうか。
この仏様には金運が良くなるご利益があるということなので、このキラキラ・ピカピカはベトナムの人達にとってはむしろ相応しいのかも知れません。
洞窟の中はとにかく湿度が高くTシャツは水に浸けたようになってしまいました。
金運が好くなるという仏様の前でUターンして下りてきた時とは反対側の壁に沿って洞窟を戻ります。
出口の近くで天井から垂れる水滴を手で受けている人達がいました。
受けた水滴を腕や顔につけていましたが、どのようなご利益があるのでしょう。
水滴を付けた部分の痛みか不具合が治るのかもしれません。
入り口に立っている石筍の横をすり抜けるようにして外に出ると、120段の石段が線香の煙と霧に霞んでいました。
巨大な洞窟寺「フォーンチク(Dong Huong Tich)」を後にして、帰路はロープウエイを利用せずに徒歩で山を下ります。
30センチメートルほどの大きさの石を敷き詰めた下る一方の道(ユンレンドンフォーンチク/Duong Len Dong Huong Tich)は降り始めた小雨に濡れてよく滑ります。
道の両側に沿ってオレンジ色、青色、青白のストライプなどカラフルな防水シートをかけて閉めたままの土産物店が並びます。
その前を勾配に任せて下りていきます。
香寺祭りの時はこの道も参拝に向かう人、戻る人で身動きがとれないくらいビッシリと埋まってしまうそうです。
徒歩で下りてきたのは途中に二つある小さなお寺に詣でるためです。
フォーンチクから300メートルほど下ると一つ目のお寺の前に出ました。
間口が6、7メートルしかないベージュ色に塗られた小さな建物が岩山にへばりつくように建っています。
デンチェンソン(Den Tran Song)です。
正面には「江山■霊」と書かれた扁額が掛かっていました(■:匯のサンズイが匚の外に出ている)。
狭い入り口から中に入ると岩壁に彫られた穴の奥に一体、その手前に三体、都合四体の仏様が祀られていました。
奥の一体は緑色の衣と被り物を、手前の三体はそれぞれ緑色、ピンク色、黄色の衣に身を包み同じ色の被り物をつけています。
デンチェンソンからさらに急な坂道を600メートルほど下ると、石段がしつらえてあるちょっと開けたところに出ました。
石段を登ると間口が10メートル余りでしょうか、白壁の寺院が岩山を背にして建っています。
二つ目の寺院、チュアガイオァン(Chua Giai Oan)です。
屋根からは赤青白黄の小さな旗を下げたロープが伸びて、谷側の手摺りにくくりつけられています。
屋根の下には「解免渓寺」と彫られていました。
建物右側の岩壁に幅80センチメートル、高さ3メートルほどの細長い割れ目があります。
割れ目の中は思いの外広い空間です。
暗い中に入ると岩壁に沿って置かれている祭壇に高さ50センチメートルくらいの仏像が5体祀られていました。
雨が降ったり止んだりの中、ようやく「南門天」の前まで下りてきました。
石段を登って門をくぐれば、これも香寺の一つ、ティエンチュー寺(Chua Thien Tru)です。
「ティエンチュー」は「天国の台所」という意味だという説もあるようです。
「天厨」と書くのでしょうか。
香寺巡りをするベトナムの人達は最初にこのティエンチュー寺にお参りして『これから香寺をお参りします』と挨拶をしてから、残りの香寺12寺を巡るのが習わしだと言います。
南門天を入ると赤い煉瓦が敷き詰められた四段の空間が山に向かって広がっています。
二段目の境内の右側には日本の三重の塔によく似た塔が建っています。
三段目の広場、南門天と正殿(本堂)の間に建っている三層の屋根に壁の無い柱だけの建物はチュイティエン塔(Thap Thuy Thien)です。
塔と呼ばれていますが講堂のようでとても塔には見えません。
柱の間に並べられた椅子では観光客が休憩しています。
三層の屋根の強い反りは見るからに日本や中国、韓国の寺院建築とは異なります。
四段目の広場の中央に「香天寳刹」と刻まれた大きめの扁額が掛かる正殿が建っています。
そして正殿前左右に据えられている台座にはそれぞれ相対するように金色に塗られた実物大のライオン像が腹這いになっています。
古色蒼然とした正殿の前に金ピカのライオンがはべる姿は収まりの悪い光景でした。
正殿の中の祭壇も金ピカです。
金ピカ飾りのモチーフは龍で真っ赤な扁額の文字は「香煙雲」と読めます。
正殿内には「撮影禁止」の札が随所に立っているのですが、あちこちでストロボが光ります。
監視役のお寺の関係者も近くにいるのですが一向に気にする風がありませんでした。
大らかなものです。
正殿と同じ四段目の広場の右端に亀の背に乗った石碑が並んでいました。
この石碑のスタイルは瀋陽の「清昭陵」にあった『大清昭稜神功聖徳碑』と同じです。
石碑にはこのお寺に由来する僧侶達の事績が刻まれているのでしょう。
13寺あるという香寺のうち4寺を巡ってきたわけですが、この山中で何泊かしなければ全てのお寺に詣でることはできそうもありません。
イエン川の船着き場ベントロからチェンボンの舟着場まで、来たときと同じ船頭さんの舟に乗ってイエン川を下ります。
1時間余りの川下りはアッという間でした。
チェンボンの船着き場から往路と同じバス、ルートでハノイ市内に戻りホテルの近くに予定通りの6時半に到着しました。
このツアーで強く印象に残ったのは香寺よりも、期せずして「静寂」を体験することができたイエン川でした(2011年8月訪問)。

タイトルの「ぬらくら」ですが、「ぬらりくらり」続けていこうと思いつけました。
ぬらくらは、ダイナフォント News Letter(ダイナコムウェア メールマガジン)にて連載中です。
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  著者 Information

著者
ダイナコムウェア コンサルタント
mk88氏

PROFILE●1942年東京都生まれ。
1966年桑沢デザイン研究所ビジュアルデザイン科卒。
設備機器メーカー、新聞社、広告会社を経て、
総合印刷会社にてDTP黎明期の多言語処理・印刷ワークフローの構築に参加。
1998年よりダイナコムウェア株式会社に勤務。
Web印刷サービス・デジタルドキュメント管理ツール・電子書籍用フォント開発・
フォントライセンスの営業・中国文字コード規格GB18030の国内普及窓口等を歴任。
現在はコンサルタントとして辣腕を振るう。
Blog:mk88の独り言

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