ぬらくら第127回「一打」
日常生活の中で使われている度量衡(長さ・体積・重さ)の基本単位はメートル法に基づいた十進法です。
そんな中で、私たちの周りには12を一括りにした「ダース」という単位で数えられているモノがあります。思いつくまま、以下に順不同で挙げてみます。
ビール、鉛筆、たまご、ドーナツ、野球やゴルフのボール、ピンポンのボール、バドミントンのシャトルコック、洋酒やドリンク類、トイレットペーパー、軍手などなど、探せばまだまだありそうです。
そもそも1ダースは12ってどこから来たのでしょうか?
ダースという英語の単語dozenは「12のグループ」を意味するフランス語douzaineに、さらにはラテン語のduodecimに由来します。
ダースは最も古い単位の一つで、古代メソポタミアで使われるようになった十二進法から来ていると言われています。
農耕に不可欠な暦は月や太陽の運行を元にした1年 12 ヶ月、さらに、数を数えるときに親指で人差し指から小指までの12の指の骨(関節)を指して数えたこと、などに由来しているそうです。
そういえば最近見た映画、フランスの中世、百年戦争中に起きた裁判を描いた作品「最後の決闘裁判」の中にこんなシーンがありました。
それは、戦で遠征している騎士ジャン・ド・カルージュの留守を守る妻マルグリットが、左手の親指で人差し指の指先から中指の指先、薬指の指先と順に触れていきながら帳簿をつけているシーンです。
この動作が数を数えていることだと知らなければ見落としてしまう一瞬のシーンでした。
片方の手で1から12まで数え、12まで数える毎に、もう片方の手で同じように親指で他の指の骨を指していくと、両方の手で144まで数えることができます。
両手で数えられる12x12=144をダースよりも大きな単位グロス(gross/12ダース)といい、12 gross x 12=1728をさらに大きな単位グレートグロス(great gross/12グロス)といいます。
12は 2、3、4、6で割り切れ、少人数でモノを分ける時にも端数が出ることが少なく便利な一面もあります。
パン屋の1ダース(baker's dozen)というのがあります。
一説によると、十三世紀のイギリスでパン屋がパンの重さをごまかして売っているという噂が流れたそうです。
これを受けて1266年に、ヘンリー三世が公布した法律『パンとビールの公定価格法』で、パン屋が販売するパンの重さを誤魔化した場合には重い罰則を課すと定めらたそうです。
しかし、パンを一つ一つまったく同じ重さで焼くことは難しい上に、焼きたてのパンと時間が経ったパンとでは水分の蒸発によって重さが変わってしまいます。
そこで客からパンの重さについて告発されることを恐れたパン屋は、1ダース(12個)を購入した客に対して、1個おまけをして13個で販売するようになったと言われています。
これを「パン屋の1ダース」と呼ぶそうです。
他に「パン屋の1ダース」は十六世紀後半に始まったという説もあるようです。
数字の12は私たちの日常生活の色々な場面で顔を出します。
星座の十二星座、干支の十二支、ギリシャ神話の十二神、新約聖書の十二使徒、仏教の十二縁起などなど、洋の東西を問わず見つけることができます。
1年は12ヶ月、1日は24時間(=12時間×2)、1時間は60分(=12×5)、1分は60秒(=12×5)というように12がベースになっています。
中学校に入学して、英語の授業で数の数え方に出会った時、10の次の11がten-oneではなくelevenで12はtwelveだと教えられ、13以上はthirteen、fourteenのように“~teen"と規則的な表現になるのだと教えられた時『英語はなんて面倒くさいんだろう』と思ったものでした。
これはまさに12を一括りにする十二進法の名残ではないでしょうか。
ユニコード (*1) のU+3324には「ダース」の横書き合字(*2)とIVS/IVD(*3)を利用した縦書き合字が収録されています。
IVS/IVDに対応したアプリケーション・ソフトウエアと、DF華康ゴシック体Pro-6N、DF華康明朝体Pro-6N、DF金剛黒体Pro-6N、DF平成ゴシック体Pro-6Nなどのフォントを利用するとこれらの文字を利用することができます。
*1)ユニコード
参照記事:ぬらくら第117回「ユニコードと多様性」はこちら
*2)合字
参照記事:ぬらくら第123回「進化するフォント」はこちら
* 3)IVS/IVD
参照記事:ぬらくら 第39回 Unicode IVS/IVDはこちら
【参考資料】
世界大百科事典 加藤周一:編 平凡社 2007年
数の宇宙 ピーター・J. ベントリー:著 悠書館 2009年
Wikipedia
タイトルの「ぬらくら」ですが、「ぬらりくらり」続けていこうと思いつけました。
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コンサルタント
mk88氏
PROFILE●1942年東京都生まれ。1966年桑沢デザイン研究所ビジュアルデザイン科卒。設備機器メーカー、新聞社、広告会社を経て、総合印刷会社にてDTP黎明期の多言語処理・印刷ワークフローの構築に参加。1998年よりダイナコムウェア株式会社に勤務。Web印刷サービス・デジタルドキュメント管理ツール・電子書籍用フォント開発・フォントライセンスの営業・中国文字コード規格GB18030の国内普及窓口等を歴任。現在はコンサルタントとして辣腕を振るう。
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