連載コラム
2021年07月13日

ぬらくら第123回「進化するフォント」

寺山修司が『書を捨てよ、町へ出よう』と言ったのは1967年のことでした。
翌年の1968年にアラン・ケイ(* 1)がパーソナルコンピュータを提唱しています。さらにその翌年の1969年はインターネットの前身「アーバネット」がスター トした年です。アーバネットは米軍のコンピュータネットワークでした。

コンピュータも初期の頃は 9 ドット、12 ドット、14 ドット、18 ドット、など、使用するサイズ毎に作られたビットマップフォントが使われていました。

これはフォントのサイズに従ったマス目に、黒い点を置いて文字を形作ったフォントです。点の集まりからドットフォントあるいはラスターフォントとも呼ばれています。

選んだサイズのフォントを拡大あるいは縮小して使用すると、文字の形が崩れてしまいます。初期のワープロ専用機やガラケーと呼ばれる携帯電話などにも使われています。

今皆さんが目にしているフォントは、拡大・縮小しても文字の形が崩れないスケーラブルフォントです。これは文字の輪郭線を座標(関数)で表現したフォントです。

代表的なスケーラブルフォントには1984年に Adobe が発表した PostScript フォントと、 1990年に Apple と Microsoft が共同で発表した TrueType フォントがあります。
この二つのフォント形式は相互に互換性がありません。

Windows は TrueType フォントを、Macintosh は PostScript フォントと TrueType フォントを採用したこともあって、文書ファイルの互換性という点でフォントの利用に際しては不便な時期がありました。

1997 年になると Microsoft と Adobe が共同で発表した OpenType フォントが登場します。Apple もこのフォント形式をサポートしたおかげで、それからはフォントの互換性を気にする必要がなくなりました。今ではスマートフォンにも OpenType フォントが採用されています。

OpenType フォントは OS の違いによるフォントの互換性を解決しただけでなく、フォント内部に字詰情報を持たせたり、合字(* 2)に対応するなど、より柔軟で高度な文字組みを可能にしました。

一つのフォントが収録している文字・記号を文字集合 (* 3) と言います。
文字集合はコンピュータが日本語の文字を扱えるようになってから、そしてコンピュータの用途が増えるに連れて増え続けてきました。

特に OpenTypeフォントが普及してからの文字集合に収録される文字・記号の増え方は顕著です。
最新の文字集合は 23,060 文字(Adobe Japan1-7 * 4)もあります。TrueType フォントの 11,233 文字(JIS X 0213:2004 * 5)の二倍以上の文字・記号が収録されています。

まだ対応しているフォントは少数ですが、異体字(* 6)や変体仮名(* 7)に対応する仕組みも用意されたことにより、コンピュータで扱うことができる古い文献の領域はこれからさらに広がるでしょう。

これはさまざまな分野の情報をコンピュータで扱えるようにしたいという欲求に応えてきた結果だとも言えます。フォントの歴史は、文字集合に収録する文字・記号の数を増やしてきた歴史だとも言えるでしょう。

OpenType フォントが普及して増えたのは収録文字数だけではなく、数多くの書体がフォントとして、各フォント開発会社から発表されています。

豊富な書体とそこに収められた使いきれないほどの数の文字・記号の恩恵を一番受けたのがデザイン・出版・印刷業界ではないでしょうか。

この恩恵の埒外に置かれていたのがウェブページです。

これまでもウェブページがどのような環境でも同じように、読みやすく表示されるようにと、ブラウザ(* 8)やページをデザインするための HTML (* 9) はバージョンアップを続けてきました。

そして、ページの表示をさらに細かく整えるために CSS (* 10) が策定され、ウェブページのデザインも飛躍的に向上します。

しかし、せっかくデザイナーがそのウェブページに相応しいフォントを選んでも、閲覧するパソコンやスマートフォンにそのフォントがインストールされていないと、そのページは別のフォントで表示されてしまい、デザイナーが意図しない見え方になってしまうという問題がありました。

これを解決したのウェブフォントです。
ウェブフォントとは、インターネット上に置かれたフォントを利用して、パソコンやスマートフォンにそのフォントを表示する技術です。

これでウェブページの閲覧者のパソコンやスマートフォンにデザイナーが指定したフォントがインストールされていなくても、ウェブページを指定したフォントで表示させることができるようになりました。

最新のフォント技術はバリアブルフォントです。
2016年に Apple、Google、Microsoft、Adobe が共同で発表したフォントの技術で、文字の太さ、字幅、文字の傾きなどを連続的に変えることができるフォントです。

未だバリアブルフォントの数やそれを扱えるアプリケーションソフトウェアの数は多くありませんが、今後、多くのウェブデザイナー達がその特徴を生かした利用方法を提案してくれることでしょう。

これからも OS やアプリケーションソフトウェア、フォントが進化を続け、フォント自身が縦組みで使われているのか、横組で使われているのかを認識し、何時でも何処でも誰にでも、書を捨てて街へ出ても、読みやすいページを提供してくれるようになるでしょう。


* 1) アラン・ケイ(Alan Kay, 1940年 - )
アメリカの計算機科学者、教育者、ジャズ演奏家。
パーソナルコンピュータの父とも言われる。1960年代当時は高価で大きく、複数人で共有して利用していたコンピュータに「個人用」という用途を想定し、それに相応しいコンピュータがどうあるべきかを考えた人。

* 2) 合字(ごうじ/リガチャー Ligature)
複数の文字を合成して一文字にしたもの。以下に一例を挙げる。
ヿ(コト/カタカナの「コ」+「ト」)、ゟ(より/平仮名の「よ」+「り」)、㎜、㎠、㎏、㌍、㌕、㌤、㍿、㋿、Æ (“A” + “E”)、œ (“o” + “e”)、& (“e” + “t”)

* 3) 文字集合
参照記事:ぬらくら第18回 「符号化文字集合」はこちら

* 4) Adobe Japan1-7
参照記事:ぬらくら第92回「鬼を笑わせる」はこちら

* 5) JIS X 0213:2004

参照記事:ぬらくら第18回 「符号化文字集合」はこちら

* 6) 異体字
参照記事:ぬらくら第39回「Unicode IVS/IVD」はこちら

* 7)変体仮名
1900(明治33)年に施行された小学校令施行規則の附表第一号表によって現在の平仮名の字体が定められたが、この表で示された字体とは異なった形の平仮名をいう。
数多い変体仮名の中から使用頻度の高い 286 文字が Unicode に登録されている。具体的な字形は “Unicode 13.0 Character Code Charts” の “Kana Supplement” と “Kana Extended-A” で確認することができる。
 “Unicode 13.0 Character Code Charts”
   https://www.unicode.org/charts/
 “Kana Supplement”
   https://www.unicode.org/charts/PDF/U1B000.pdf
 “Kana Extended-A”
   https://www.unicode.org/charts/PDF/U1B100.pdf

* 8) ブラウザ
ウェブブラウザ。ウェブページを見るためのアプリケーションソフトウェア。FireFox、Google Chrom、Microsoft Edge、Safari、Opera などがある。

* 9) HTML (HyperText Markup Language)
ウェブページを表現するために用いられる言語。
ウェブページの見出しや段落といった文章構造、フォントや文字の色、リンクや画像・動画の表示など、ウェブページの見た目を指定する。
ウェブで使われる技術の標準化を推進している非営利団体 W3C (World Wide Web Consortium) によって策定されている。現在のバージョンは HTML 5.2。

* 10) CSS (Cascading Style Sheets)
ウェブページで作成される文書のスタイル(書体、文字のサイズ、行間、色など)を指定するスタイルシート。HTML と組み合わせて使用する。
W3C によって策定されている。現在のバージョンは CSS3。

タイトルの「ぬらくら」ですが、「ぬらりくらり」続けていこうと思いつけました。
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ダイナコムウェア コンサルタント
ダイナコムウェア株式会社
コンサルタント
mk88氏

PROFILE●1942年東京都生まれ。1966年桑沢デザイン研究所ビジュアルデザイン科卒。設備機器メーカー、新聞社、広告会社を経て、総合印刷会社にてDTP黎明期の多言語処理・印刷ワークフローの構築に参加。1998年よりダイナコムウェア株式会社に勤務。Web印刷サービス・デジタルドキュメント管理ツール・電子書籍用フォント開発・フォントライセンスの営業・中国文字コード規格GB18030の国内普及窓口等を歴任。現在はコンサルタントとして辣腕を振るう。
Blog:mk88の独り言

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