ぬらくら第118回『続「明朝体の教室」』
連続セミナー「タイポグラフィの世界 (* 1)」は2010年12月4日に第一回が開かれました。
以来、その都度テーマを選びながら回を重ね、2018年11月17日から始まった『明朝体の教室』へと途切れることなく続いていいます。
「タイポグラフィの世界」は文字と組版にまつわるテーマを掲げて開催が続けられ、昨年(2020年)で十年が経ちました。
セミナーの企画・運営を続けてきた主催者の連続講座実行委員会(阿佐ヶ谷美術専門学校デザイン学科)の皆さんにはただただ感謝しかありません。
当コーナーの第100回 (* 2) でも『明朝体の教室』の第五回までの様子を紹介していますが、以下にその後のセミナーの概要を「明朝体の教室」の開催告知案内から引用して紹介します。
【連続講座 明朝体の教室】第六回 2019年10月5日 開講
《漢字》6 書きにくい漢字はどうデザインすればいいか その二
今回は、上下構造の下をどう作るかで悩む「衆」、文字全体を支える縦線を持たない「愛」、冠脚構造で下が左右合成の「範」、文字の重心をできるだけ中央にしたい「病」と「風」、「気構え」という不安定な部首を持つ「気」──を考えてみます。
小さな差異がその字を良くも悪くも見せる要因になります。
【連続講座 明朝体の教室】第七回 2019年12月7日 開講
《漢字》7 書きにくい漢字はどうデザインすればいいか その三
縦線と横線を付けるのか付けないのかで悩む「奥」、左流れの同じ構造をどう上下に置いたらいいかで苦労する「多」、旁の左右に「幺」が並び「戈」が中央を通る複雑な構造の「機」、偏旁ともにバランスの取りにくい「続」──。
今回が漢字の最終回です。次回からひらがなを考えます。
最新シリーズの『明朝体の教室』は上でも紹介しているように、2019年12月7日に開催された第七回で漢字篇を終わり、第八回からはいよいよひらがな篇が始まる予定でした。
2020年3月7日に開催される予定だった第八回『明朝体の教室 ひらがな その一』は、2月に入ると日本でも COVID-19(新型コロナウイルス)感染拡大の影響が出始めたために、その開催が5月16日に延期になり、さらに無期延期のやむなきに至りました。
今年(2020年)の開催は無いな、と思っていたところ11月の初めに、主催者からインターネットを利用したライブ配信で開催することになった、と言う連絡をいただきました。
配信日は12月26日(土)、配信時間は午後1時30分から午後4時30分、講師は書体設計士の鳥海修さん、司会・進行はブックデザイナーの日下潤一さんです。
配信は “Peatix (* 3)” を利用して行われました。
配信は日下さんによるセミナー開催の挨拶とオンラインライブ配信に至るまでの経緯の紹介でスタート、後は概ね以下のプログラムに沿って進められていきました。
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■はじめに
(鳥海さんの仮名デザインに対する基本的な考え方)
明朝体の漢字と仮名の成立
・漢字:殷墟の甲骨文字→篆書→隷書→楷書→明朝体へ
・仮名:漢字→万葉仮名→草仮名→連綿体→楷書(教科書体)→明朝体へ
小学一年の書写の教科書にあるひらがなが連綿のかなを楷書化したものに見える。
これを明朝体のひらがなのベースと考えても良いのではないか。
■明朝体の仮名の考え方(主に本文書体)
・スタイル
ふところ/広い・狭い
エレメント/硬い・柔らかい
モダン・クラシック
・運筆(柔らかい、硬いによる見え方の印象)
・太さ
・大きさ
<休憩>
■鳥海さんの仮名の作りかた
一ミリメートル方眼紙を使って一から三センチメートル四方の枠の中に、一文字ずつシャープペンシルでデッサンするところから始まり、骨格の抽出、墨と筆による肉付け、出来上がった形をさらに墨と白のポスターカラーで修正、コピー機で五センチメートル程度に拡大した上に、さらに修正を加えてアナログ原字を完成させる。
この原字からスキャンデータを作り、アウトライン化、仮フォントの作成、テスト組版し、その結果からフォントデータ上で修正、さらにテスト組版を繰り返して完成度を上げてゆく。
■<あ>~<お>のデザイン
游明朝体Mのひらがなはどのように作られたれたのか、秀英明朝体L、ヒラギノ明朝W3、リュウミンR、イワタオールド、筑紫明朝Mの<あ>~<お>を一覧にして比較しながら解説が進められた。
■質疑応答
質問はあらかじめ視聴者に知らされていたセミナーの Twitter 公式アカウント (* 4) にリプライするという形で随時寄せられていた。
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予め実施したテスト配信では問題が無かったのに、本番ではネットワークのトラブルが発生して配信開始時間が10数分ほど遅れたり、オンエアー中に鳥海さんが付けているピックアップ・マイクロフォンが不具合を起こしたり(電池切れか?)と、想定外のハプニングに見舞われましたが、100人を超える熱心な視聴者に支えられ、初めのうちは硬かったスタジオ内の空気も時間と共にほぐれて、鳥海さんのひらがなの難しい曲線の説明も、日下さんの意を得た質問を交えて、最後まで分かりやすく、面白く視聴することができました。
游明朝体Mの<え>のデザインを解説している時に飛び出した日下さんのジョーク『イワカンオールド』は鳥海さんに大受けでした。
果たして視聴者にも同じように受けたのか、見ているパソコンのモニターからはセミナー全体の雰囲気が伝わってこなくて何か物足りないものがありました。
主催者からは Twitter 上で『ハッシュタグ #明朝体の教室 をつけてコメントしてください』という案内もありましたが、こんな時のリアルタイムな反応を知るにはもどかしいものがありました。
リアルな会場のように参加者たちの反応や熱度を感じ取ることができれば、登壇者のお二人ももっとやりやすかったのではないでしょうか。
「私の仮名の作りかた」のくだりで鳥海さんが方眼紙を取り出し『こんな大きさで書くことはないんだけど……』と言いながら、スタッフからのリクエスト「もりそば」をコンセプトに「二八蕎麦・硬目」のイメージで十センチメートル角のマスに書き始めたのは<そ>でも<ば>でもなく<れ>の字でした。
この時にライブ配信の好さが分かりました。
リアルなセミナーだと実演している鳥海さんの手元は一部の人にしか見えませんが、配信される映像ならどこで視聴していても画面いっぱいに鮮明に映し出されます。
配信セミナーは次回開催の案内 (* 5) をもって無事に終了しました。今回のセミナーの内容は後日、冊子になって販売されるようです。
また「明朝体の教室」第一回から第七回までの冊子と『LETTERING/2020改訂版』小宮山博史著(私家版2001年刊の復刻)を入手することができます。
詳しい入手方法は人形町ヴィジョンズのサイトの「連続セミナー タイポグラフィの世界 (* 1)」にその案内が掲載されています。
* 1) 連続セミナー タイポグラフィの世界
https://visions.jp/b-typography/
* 2) ぬらくら第100回 明朝体の教室
https://www.dynacw.co.jp/fontstory/fontstory_detail.aspx?s=395
* 3) Peatix
イベント管理&グループ運営サービス・サイト
https://peatix.com/
* 4) Twitter 公式アカウント
@w_typography
* 5) 第九回「明朝体の教室 ひらがな その二」
開催日時:2021年3月27日(土)配信時間は後日告知
内 容:<か>行・<さ>行のデザイン
申し込み:2月下旬
タイトルの「ぬらくら」ですが、「ぬらりくらり」続けていこうと思いつけました。
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ダイナコムウェア株式会社
コンサルタント
mk88氏
PROFILE●1942年東京都生まれ。1966年桑沢デザイン研究所ビジュアルデザイン科卒。設備機器メーカー、新聞社、広告会社を経て、総合印刷会社にてDTP黎明期の多言語処理・印刷ワークフローの構築に参加。1998年よりダイナコムウェア株式会社に勤務。Web印刷サービス・デジタルドキュメント管理ツール・電子書籍用フォント開発・フォントライセンスの営業・中国文字コード規格GB18030の国内普及窓口等を歴任。現在はコンサルタントとして辣腕を振るう。
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