連載コラム
2020年04月13日

ぬらくら第108回 「住所の表記」

梅を見る機会のないまま、桜がほころび始めてしまいました。
どうやら今年の春は桜もままならないことになりそうです。

前回(第107回)のこのコーナーで姓名のローマ字表記について書きました。
姓名をローマ字表記するときに何故「名-姓」のように逆に表記するのか、その理由や、ローマ字表記でも日本式に「姓-名」と書こうという提唱があることにも触れました。

他にも、欧米式に表記するときに、日本語の表記順とは全く逆に表記するものがあります。

住所です。

日本語では、当たり前のことですがハガキや封書、宅配便の伝票には、住所姓名を次の順で書きます。
 101-0051
 東京都千代田区神田神保町2-38
 いちご九段ビル8階
 台奈 太郎

郵便番号-都道府県-郡市区-町-番地-建物-階-姓-名の順です。

一番大きな区画から、一段ずつ小さな区画に下りて行きます。
下位の区画は常に複数あるので、そこから適切な次の区画をたどって自分にたどり着きます。

▼イメージ図


イメージ図1

初めに大地ありきでしょうか、大きな区画から求心的に中へ中へ向かいます。
その様子を次の図のように表してみました。自己は集団に属しているように見えます。

▼イメージ図


イメージ図2

先ほどの住所をローマ字書きで欧米式(大雑把で曖昧な区分ですが)に表記すると、

 Taro Dyna
 8 Floor, Ichigokudan Bldg.
 2-38, Kandajimbocho, Chiyoda-ku, Tokyo
 101-0051

となり、名-姓-階-建物-番地-町-郡市区-都道府県-郵便番号の順で、日本語とは逆順です。

欧米式の表記は最初に自己があって、家族、番地、町、市区……と外へ外へ向かい遠心的で直線的です。上位の区画は常に一つしかありません。

日本式と比較しやすいように欧米式のイメージを日本語で書いてみました。

▼イメージ図


イメージ図3

世の中に対して常に自己が出発点であるというイメージでしょうか。その様子を先ほどの図を利用して次の図のように表してみました。
同じ図でも、自己が世界の中心に居るようにも見えます。

▼イメージ図


イメージ図4

日本の求心的表記と欧米の遠心的表記、この違いはそれぞれの世界観、自己をどのように認識しているのかということと関係しているように思えます。

中国、台湾、韓国も自国語での住所姓名の表記は日本と同じように大きな区画から小さな区画 (* 1) へと書き進みます。
参考までにと思い、同じことをタイとベトナムの知人に聞いたところ、どちらも欧米式の表記順だという返事で、これはちょっと意外でした。

ベトナムも日本、台湾、中国、韓国と共に漢字文化圏 (* 2) に属し、漢字を利用していた歴史を持っているので、てっきりベトナムの住所姓名の表記方法も日本式だと思い込んでいました。

ベトナムは1945年に、それまで国字として利用してきた漢字を捨てて、代わりにフランスの統治下で普及したクオック・グー (* 3) と呼ばれるアルファベット表記を採用しているので、ひょっとしたらその頃に住所姓名の表記順も欧米式になったのかもしれません。確証はありませんが……。

住所姓名を表記する順番の中に、良くも悪くも空気を読み周囲に気を配るといわれる日本人の性向と、自己主張が強いといわれる欧米人の傾向が見えた気がしましたが、果たして他の国にもこれが当てはまるのでしょうか。

* 1) 小さな区画
中国、台湾は道路(街、路)名が町名の代わりになっている。
前回(第107回)のこのコーナーで紹介した台湾、香港の通称名は、郵便物などの住所姓名表記には用いず、その場合は本名を書く。

* 2) 漢字文化圏
漢字に代表される漢文化(中国文化)を使用しているか、過去に使用していた地域のことで、漢字の他に漢文や儒教などに由来する文化を共有している地域のこと(ウィキペディアより)。

* 3) クオック・グー
ラテン文字を使用してベトナム語を表記する方法で、アクセント符号を併用することによりベトナム語の六つの声調を表記することができる。
「クオック・グー」とは「国語」のベトナム語読みである(ウィキペディアより)。

タイトルの「ぬらくら」ですが、「ぬらりくらり」続けていこうと思いつけました。
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ダイナコムウェア コンサルタント
ダイナコムウェア株式会社
コンサルタント
mk88氏

PROFILE●1942年東京都生まれ。1966年桑沢デザイン研究所ビジュアルデザイン科卒。設備機器メーカー、新聞社、広告会社を経て、総合印刷会社にてDTP黎明期の多言語処理・印刷ワークフローの構築に参加。1998年よりダイナコムウェア株式会社に勤務。Web印刷サービス・デジタルドキュメント管理ツール・電子書籍用フォント開発・フォントライセンスの営業・中国文字コード規格GB18030の国内普及窓口等を歴任。現在はコンサルタントとして辣腕を振るう。
Blog:mk88の独り言

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