ぬらくら第106回 「日本酒の世界」
本年も当コーナーをご愛読くださいますよう、よろしくお願いいたします。
新年の初走りで464号線と成東酒々井線を経て酒々井の蔵元まで行って来ました。酒々井は「シスイ」と読みます。
昨年10月に乗り換えた愛車は、電動でウインド・スクリーンが上下する250ccのスクーター、今日も快調です。
目指したのは地域の幹道から少し入った里山を背に、周囲の木々に囲まれるようにヒッソリと建つ三百年以上続く蔵元です。
酒造工場の前で屋根にドッシリと黒瓦を載せているのは、新潟県上川村の室谷から移築したまがり屋でこの蔵元の直営店です。
酒造が造る酒の他に近隣地産の農産加工食品や軽食が用意されています。
酒の要がなくても、まがり家と周囲の里山の空気、まがり家でのランチが目的でここまでやってくることもあります。
ぬらく子が酒を呑み始めた頃の日本酒は、含有するアルコール度数の違いに応じた二級酒、一級酒、特級酒の格付けしかなかったのが、 今や、吟醸だの純米だのひやおろしだのとヤヤコシイことになっているので調べてみました。
日本酒は特定名称酒とそうでない普通酒に分けられます。
さらに特定名称酒は純米系、本醸造系、吟醸系に分けられます。それぞれの違いに触れる前に酒造りに使う米の精米歩合について触れておきます。
●精米歩合
精米とは、玄米の表層部から糠、胚芽などを削り取ることです。玄米に対してどれだけ削り取ったのかを重量の割合で示したのが精米歩合です。
平均的な食用米の精米歩合は90パーセントほどで、これは玄米をその重量比で10パーセント削り取ったことを示しています。
日本酒を造る際には、米の表層をさらに削り取ります。酒造りでは『削り取る』などと無粋な言い方をせず『米を磨く』と言うようです。
米の表面にはタンパク質や脂質、デンプンなどが含まれています。これらはできあがった酒の雑味の元や香を押さえてしまう元になるので、酒造り に使う米は食用米よりもさらに磨きます。
さて、精米歩合の意味が分かったところで純米系、本醸造系、吟醸系の説明を続けます。
純米系、本醸造系、吟醸系は原料や精米歩合などによって、さらに次のように分類されます。
◆純米系
○純米酒
原料:米、米麹、水
○純米吟醸酒
原料:米、米麹、水
精米歩合:60パーセント以下
吟醸造り
○純米大吟醸酒
原料:米、米麹、水
精米歩合:50パーセント以下
吟醸造り
◆本醸造系
○本醸造酒
原料:米、米麹、水、醸造アルコール
精米歩合:70パーセント以下
○特別本醸造酒
原料:米、米麹、水、醸造アルコール
精米歩合:60パーセント以下
◆吟醸系
○吟醸酒
原料:米、米麹、水、醸造アルコール
精米歩合:60パーセント以下
吟醸造り
○大吟醸酒
原料:米、米麹、水、醸造アルコール
精米歩合:50パーセント以下
吟醸造り
ここで純米系、吟醸系の中に吟醸造りという言葉が出てきました。
●吟醸造り
国税庁は『吟味して醸造することをいい、伝統的に、よりよく精米した白米を低温でゆっくり発酵させ、粕の割合を高くして特有な芳香を有するように醸造すること』と定義しています。
よく磨いた米を10度前後の低温で1ヶ月近い時間をかけて発酵させ、香りと味わいを調整する酒造方法です。
特定名称酒の違いは以上の通りですが、日本酒には他に生酒、生貯蔵酒のように名前に生とついている酒があります。
これは、酒造りにおける加熱処理を行うタイミングの違いによるものです。
●加熱処理
通常の日本酒は、貯蔵前に一度、出荷前に一度、殺菌効果や酒の質を安定させるために加熱処理を行います。これを火入れと言います。
一度も火入れをせずに出荷されるのが生酒です。
生のまま貯蔵して出荷前に一度火入れをするのが生貯蔵酒です。
貯蔵前に一度だけ火入れをした酒が生詰で、これを特別にひやおろしと呼んでいます。
貯蔵前火入れ
出荷前火入れ
通常の日本酒:
○
○
生酒:
×
×
生貯蔵:
×
○
生詰(ひやおろし):
○
×
他にもラベルに山廃仕込みと書かれている瓶を見たことがあると思いますがどういう仕込みかたなのでしょう。
日本酒は基本的に米と麹と水によって造られることはこれまでに見てきたとおりです。
米のデンプンを麹の働きによって糖に変化させ、さらに酵母菌の力でアルコール発酵させると日本酒ができあがります。
●山廃仕込み
酒造りにはアルコール発酵を担う酵母を繁殖させる酒母造りという過程があります。酒母のことを酛(もと)ともいいます。
酵母を繁殖させるには酵母以外の雑菌を除いて、酵母が繁殖しやすい環境にする必要があります。
雑菌を除き酵母を増殖させるために必要なのが乳酸です。酵母は非常に繊細な微生物で雑菌があると死んでしまいます。
しかし酵母は酸に強いので乳酸を加えて雑菌を取り除き、酵母だけを増殖させます。
かつては自然界に存在する乳酸菌を取り込むために、米や米麹を手作業ですり潰し溶かして酒母を造っていました。
そして酒母に乳酸菌が自然増殖するのを待ちます。
米をすり潰す作業を山卸(やまおろし)あるいは酛(もと)すりと言います。
山卸は深夜から早朝にかけて、極寒の中で大勢の蔵人で行う必要があり、この作業は蔵人にとっては大変な重労働です。
この山卸作業を行う酒の造り方を生酛(きもと)造りといいます。
生酛造りは十七世紀後半、江戸時代の始めに完成した醸造方法です。
明治の終わり頃に、山卸をして自然界から乳酸を得る代わりに、人工の乳酸を利用する方法が考案されます。
この方法で造られた酒母を速醸酛(そくじょうもと)と言います。
同じ頃、山卸を行った生酛(きもと)と、行わなかった速醸酛に成分の違いがないことも分かり、 重労働の山卸をせずに酒造りを行う方法が普及していきます。
生酛(きもと)から山卸を廃止したので、これが山廃と呼ばれるようになります。
日本酒の親類にどぶろくがありますが、これは米と麹、水を原料として発酵させ、漉す工程を経ない酒のことです。
【参考資料】
酒みづき
https://www.sawanotsuru.co.jp/site/nihonshu-columm/
菊正宗酒造総合研究所
https://www.kikumasamune.co.jp/rd/index.html
日本酒ペディア
http://nihonshupedia.blog.jp/
上記の他、日本酒関連のサイト多数
タイトルの「ぬらくら」ですが、「ぬらりくらり」続けていこうと思いつけました。
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mk88氏
PROFILE●1942年東京都生まれ。1966年桑沢デザイン研究所ビジュアルデザイン科卒。設備機器メーカー、新聞社、広告会社を経て、総合印刷会社にてDTP黎明期の多言語処理・印刷ワークフローの構築に参加。1998年よりダイナコムウェア株式会社に勤務。Web印刷サービス・デジタルドキュメント管理ツール・電子書籍用フォント開発・フォントライセンスの営業・中国文字コード規格GB18030の国内普及窓口等を歴任。現在はコンサルタントとして辣腕を振るう。
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