連載コラム
2020年02月04日

ぬらくら第105回 「松本タイポグラフィ研究会」

未だ頂きに雪が残る常念岳を会場の窓の外に見ながら正木香子さんの「おいしい文字のチカラ」を聞いたのは2018年3月17日、会場は松本商工会館。

松本なら旨い蕎麦が喰えるナ、松本城があるナ、松本市美術館では草間彌生展をやっているナ、などなどの下心を持って松本入りしたのを思い出します。

松本タイポグラフィ研究会主催による記念すべき第一回セミナー「松本タイポグラフィセミナー/書物と活字シリーズ」に登壇したのが上記の正木さんで、松本商工会館六階に用意された会場は、主催者が予定していた募集定員80名を超えて東京、神奈川、大阪、名古屋、京都など県外からの参加者も含め、高校生、大学生、プロのDTPオペーレータ、デザイナー、ライターなど100名近くの参加者で埋まる盛況でした。

このセミナーを主催している松本タイポグラフィ研究会 (* 1) は2017年初冬に文字やタイポグラフィに関心を持つ市内の印刷会社に勤務する人達を始めとする松本市在住の有志達によって立ち上げられた研究会です。

また、著書に『日本語組版入門 その構造とアルゴリズム』(誠文堂新光社、2018)をお持ちのグラフィックデザイナー・向井裕一さんも初回からその活動をサポートしています。

松本タイポグラフィ研究会設立の経緯とその意義については、第一回セミナーの報告書の中に次のように記されています。

「東京、大阪、名古屋などの都市では、比較的規模の大きいさまざまな分野のセミナーが開催されているが、松本をはじめとした地方では、その機会は限られている。そのような状況を打破し、信州松本を中心にタイポグラフィの文化を根付かせ、発展させたいという強い願いから発足したのが『松本タイポグラフィ研究会』である」

2019年11月30日に開催された第六回目のセミナーで第一回セミナー開催から二年が経ちました。

第七回目のセミナーは2020年4月11日に開催される予定で、講師は弊社のホームページでも連載コラム「活字の玉手箱(* 2)」を執筆してくださった明朝教教祖を自称する小宮山博史さんの登壇が内定しているそうで、会場は松本市内になるのか他所に展開して行くのか未定とのこと。

文化性の高いセミナーを中央や大都市だけでなく地方や小都市でも開きたい、いや開ける、という意気込みで集う松本タイポグラフィ研究会も今年で三年目、いよいよ正念場を迎えることになります。

地元の理解と協賛を得ながらのセミナー開催とはいえ、ボランタリーで運営されているため毎回、運営資金の確保には心を砕いているようです。ホームページ (* 1) では研究会の活動に賛同する法人、団体、個人を問わず協賛を募っています。

この二年間に開催された第一回から第六回までのセミナーの概要を、以下に簡単に紹介します。

「松本タイポグラフィセミナー」シリーズ第1回のシリーズ・テーマは「書物と活字シリーズ」

【書物と活字シリーズ 第一回】
標題:おいしい文字のチカラ 見る◎読む◎味わう 書体入門
講師:正木香子
期日:2018年3月17日
会場:松本商工会館
独自の書体批評で文字の面白さ、奥深さを伝えている文筆家、正木香子さん。
マンガや文学に登場する様々な文字を通して滋味豊かな書体の世界を楽しみながら、戦後の活字文化、ひいては文字の味わい方がわかれば、何気なく目にしていた文字の印象がガラリと変わるはず。
(講師略歴)
文筆家、「文字の食卓」主宰、レタリング技能検定中央試験委員。
幼いころから活字や写植の書体に魅せられ〈滋味豊かな書体〉をテーマに各紙誌にエッセイを発表している。
著書に『文字の食卓』(本の雑誌社、2013)『本を読む人のための書体入門』(星海社新書、2013)『文字と楽園 精興社書体であじわう現代文学』(本の雑誌社、2017)などがある。

【書物と活字シリーズ 第二回】
標題:本文書体の考え方・見方・作り方
講師:鳥海修
期日:2018年7月28日
会場:JA松本市会館
スマートフォンや新聞で情報を得、本で物語を読むことができるのはあの小さな文字のおかげ。
その文字が人の手によって一字々々作られていることを知っている人は少ない。
その本文用書体に対する作り手のこだわりと作り方を分かりやすく解説、文字の面白さや奥深さに触れる。
(講師略歴)
(有)字游工房書体設計士。多摩美術大学デザイン科グラフィックデザイン専攻卒業。
大日本スクリーン製造のヒラギノシリーズ、字游工房の游書体ライブラリーなど、ベーシック書体を中心に百書体以上の書体開発に携わる。
2002年に第一回佐藤敬之輔顕彰、ヒラギノシリーズで2005年グッドデザイン賞、2008年に東京TDC賞 タイプデザイン賞を受賞。
著書に『文字を作る仕事』(晶文社、2016)、共著書に『本をつくる』(河出書房新社、2019)がある。

【書物と活字シリーズ 第三回】
標題:組版における構造・構成・造形
講師:白井敬尚
期日:2018年11月3日
会場:JA松本市会館
紙面形成における組版の造形の基本原理とは何か、レタースペースに対する視覚制御の方法、書体の選択、線構成、面構成、組体裁などを、最小サイズの情報メディアとしての名刺を題材に考察を進める。
(講師略歴)
グラフィックデザイナー。タイポグラフィを中心としたグラフィックデザインに従事。
2012年より武蔵野美術大学視覚伝達デザイン学科教授。
主な仕事に『書物と活字』(朗文堂、1998)『EXHIBITIONS』(ggg、大日本印刷ICC本部、2007)『横尾忠則全装幀集』(PIE、2013)のほか、2005年から2015年にかけてデザイン誌『アイデア』のアートディレクションとデザインを担当。

【書物と活字シリーズ 第四回】
標題:自分の物差しをつくる 鈴木一誌のブックデザイン入門
講師:鈴木一誌
期日:2019年4月13日
会場:松本商工会館
「装丁(装幀)」と「ブックデザイン」という言葉がある。
装丁は主に本の外側のデザインを指し、ブックデザインは本文をふくめた書物全体のデザインを意味している。
本文は、紙面に統一感と適度な変化を与え、ページ順に綴じる「ページネーション」と呼ばれる作業によって、読者の眼に見えるように具体化される。
外まわりの装丁も、ページネーションを構成する一部だと考える。
ページネーションは紙面に見えない格子を配置するグリッド・システムにまで進む。
このグリッド・システムは粗い目盛りからより細かい目盛りへと作り込んで行く。
このプロセスを経ることによってその目盛りは〈自分の物差し〉になる。
(講師略歴)
ブックデザイナー。主な仕事に『
昭和 ─ 二万日の全記録 ─』(1989)『Japan An Illustrated Encyclopedia ─ 英文日本大事典』(1993)『クロニック世界全史』(1994)『人物20世紀』(1998)以上講談社、『戦後50年』(1995)『20世紀年表』(1997)以上毎日新聞社、『知恵蔵』『朝日年鑑』『Japan Almanac』以上朝日新聞社、などがある。神戸芸術工科大学客員教授。
著書に『画面の誕生』(みすず書房、2002)『重力のデザイン』(青土社、2007)『ブックデザイナー鈴木一誌の生活と意見』(誠文堂新光社、2017)など多数あり。

【書物と活字シリーズ 第五回】
標題:すべては文字の中
講師:平野甲賀
期日:2019年8月24日
会場:上土劇場
1960年代のアングラ演劇活動の演出家であった津野海太郎との出会いから、劇団黒テントのための舞台美術、ポスター、チラシなどの宣伝デザインなどを始めとする仕事と、晶文社で手がけた数多くの装丁を、独自のレタリング作品と共にスクリーン上に示しながら、その時代と取り組みについて語る。
(講師略歴)
グラフィックデザイナー、装丁家。高島屋宣伝部、京王百貨店宣伝部を経てフリーデザイナーとなる。
1964年より晶文社の装丁の殆どを手がけ同社のイメージを定着させた。
1973年、雑誌『Wonder Land』(第三号から『宝島』に改名)創刊に参加。1978年『水牛通信』発行に参加。
1984年、木下順二著『本郷』(講談社、1983)の装丁で「講談社出版文化賞 ブックデザイン賞」を受賞。
2013年、『平野甲賀の仕事展』など個展開催多数。著書に『平野甲賀 装丁の本』(リブロポート、1958)、『文字の力』(晶文社、1994)『きょうかたる きのうのこと』(晶文社、2015)など多数あり。

【書物と活字シリーズ 第六回】
標題:編集とタイポグラフィ
講師:室賀清徳・ゲスト 白井敬尚
期日:2019年11月30日
会場:上土劇場
第一部では激しく変化するデザイン環境のなかで、編集者は活字、タイポグラフィ、ブックデザインをどのように捉え、なにを提示しようとしてきたのか。モダン・タイポグラフィから最新タイポグラフィ事情、古典から現代にいたる和欧の書体設計・活字史研究の成果、大正・昭和初期から戦後に続く出版史、戦後日本のタイポグラフィやポップカルチャーにおける文字とデザイン等々を、スクリーン上に『アイデア』誌のバックナンバーを示しながらその背景にあった考え方や記事が纏まるまでの過程を語る。
第二部では古今東西、さまざまなジャンルにわたるタイポグラフィの諸相を横断的に取り上げてきた『アイデア』誌特集の背景にあった考え方や編集過程を、同誌のアートディレクターとしてタッグを組んできた白井敬尚氏を壇上に迎えて語り尽くす。
(講師略歴・ゲストの略歴は既出参照)
編集者。1999年よりグラフィックデザイン、タイポグラフィ、視覚文化についての書籍を中心に編集。
『アイデア』誌前編集長(2001-2018)。国を越えた評論活動や教育活動にもかかわる。
担当書に『新版 タイポグラフィ・トゥデイ』(ヘルムート・シュミット、2004)『文字の美・文字の力』(杉浦康平、2008)『日本語活字ものがたり』(小宮山博史、2009)『日本語組版の考え方』(向井裕一、2008)以上誠文堂新光社。
近年の担当書に『作字百景』(グラフィック社、2019)がある。武蔵野美術大学、東京藝術大学、多摩美術大学非常勤講師。

* 1) 松本タイポグラフィ研究会
http://matsumototypography.jpn.org

* 2) 活字の玉手箱
https://www.dynacw.co.jp/fontstory/fontstory_komiyama.aspx

タイトルの「ぬらくら」ですが、「ぬらりくらり」続けていこうと思いつけました。
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ダイナコムウェア コンサルタント
ダイナコムウェア株式会社
コンサルタント
mk88氏

PROFILE●1942年東京都生まれ。1966年桑沢デザイン研究所ビジュアルデザイン科卒。設備機器メーカー、新聞社、広告会社を経て、総合印刷会社にてDTP黎明期の多言語処理・印刷ワークフローの構築に参加。1998年よりダイナコムウェア株式会社に勤務。Web印刷サービス・デジタルドキュメント管理ツール・電子書籍用フォント開発・フォントライセンスの営業・中国文字コード規格GB18030の国内普及窓口等を歴任。現在はコンサルタントとして辣腕を振るう。
Blog:mk88の独り言

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