連載コラム
2019年10月30日

ぬらくら第102回 「ATypI」

ATypI、「エー・タイプ・アイ」と読んだり、親しみを込めて、あるいはおどけて「アティピ」と言うこともあります。

ATypI(* 1)は “Association Typographique Internationale” の略で「国際タイポグラフィ協会」のことです。

この協会は1957年にパリの活字鋳造会社デバニー・アンド・ペイニョ(Deberny & Peignot)で役員をしていたチャールズ・ペイニョ(Charles Peignot/1897 - 1983)がマキシミリアン・ヴォクス(Maxmilien Vox/1894 - 1974)、ジョン・ドレフェス(John Dreyfus/1918 - 2002)、ヘルマン・ツァップ(Hermann Zapf/1918 - 2015)、ロジャー・エクスコフォン(Roger Excoffon/1910 - 1983)、エイドリアン・フルティガー(Adrian Frutiger/1928 - 2015)達と共に設立した団体です。

それにしても凄いメンバーです。

ATypIは、文字に関わる世界中の人達が抱える様々な問題(新しい技術やその動向、ビジネス、教育など)について話し合う世界的な非営利組織です。

そしてATypIには世界各地で活躍するタイプ・デザイナー、フォント開発会社、グラフィック・デザイナー、印刷技術者、教育者が含まれています。
その中にはそれぞれの世界で活躍する著名な人がたくさんいます。

その活動は文字とタイポグラフィの文化、伝統、歴史を保存するだけでなく、次のような活動を含んでいます。

・現代のデジタルフォントを促進し、フォント技術の革新をサポートする
・世界中の活版印刷教育プログラムをサポートし促進する
・優れた印刷技術と印刷デザインを奨励する
・書体デザインの保護キャンペーン
・会議、ワークショップ、セミナー、その他の教育イベントを開催する

世界各地の都市を巡って毎年開催されるATypIは、開催国のATypIのメンバーと沢山のボランティア達によって運営されています。一例を挙げると、

・2018年:ベルギーのアントワープ
・2017年:カナダのモントリオール
・2016年:ポーランドのワルシャワ
・2015年:ブラジルのサンパウロ

と言った具合で、アジア圏では2012年に香港で開催されています。

今年(2019年)で62年目を迎えたATypIが東京で開催されるというので、ぬらくら子も参加してきました。

開催期間は9月4日から7日までの四日間、会場は日本科学未来館(* 2)でした。

受付で事前登録の確認を受け名前が刷り込まれている入場バッジをもらい、それを首から下げて会場内のジュピター・ルームに向かいます。
会場が開く朝8時に合わせて用意されたコーヒーやジュース、簡単な朝食で空きっ腹を満たしてから講演会場に向かいます。

講演会場はメインのミライカン・ホール(Miraikan Hall)とサブ会場のイノベーション・ホール(Innovation Hall)の二ヶ所用意されています。
メイン会場では発表者が講演し、サブ会場では同時通訳の音声と大きなスクリーンでメイン会場の講演を聴きます。

オープニングの基調講演からクロージングの講演まで全52講演 (* 3) 、一度にこれだけの講演は驚異(脅威)でした。
この四日間は朝の九時から夜は七時過ぎまで、文字通り文字漬けの四日間で、世界の各地から集まった約500人共々、全身に文字が染みこんでしまうのではないかと思ったほどです。

全講演の中でインターネット上でも話題になっている新しいフォント技術、バリアブルフォント (* 4) に関する講演が八題と、その数の多さが目につきました。

シンハラ文字、チベット文字、メイテイ文字、クメール文字、ランジャナー文字など少数言語の文字に関する発表にも興味深いものがありました。

他に「文字がどのように認識されるのか」と言う観点から以下の三つの研究発表もありました。

・児童がどのように文字を認識してゆくのか、その認識過程の解明を試みた研究
・AR(Augmented Reality、拡張現実)の環境下ではどのような書体が認識されやすいのか、より好いフォントの選び方を追求した研究
・視線追跡装置を使って、表示されている語句がどのように認識されるのかを解明しようとする研究

国外から参加している発表者は全体の七割ほどだったでしょうか。
講演者が事前にその講演ノートを事務局に提出しているのでしょうが、中には通訳者が何度も言葉に詰まってしまう講演もあり、ギリギリまで講演内容が推敲されていた様子が推測されます。

ランチタイムはジュピター・ルームへ。ここには飲み物やスナックの他に三種類の弁当が用意されていました。
小麦粉などグルテンを含まないグルテンフリーの弁当、動物由来の食品を排したヴィーガン向けの弁当、イスラム法で許された食材で作られたハラールの弁当です。

ぬらくら子は日替わりでこの三つの弁当を試しました。
どれも似たような味付けだったせいか、あるいはぬらくら子の舌が鈍感なのか、グルテンフリーも、ヴィーガンも、ハラールもどれも美味しく、三つの弁当の味に大きな違いを感じることができませんでした。

二つの講演会場から出てきた参加者が一斉に弁当の前に集まりますが、言葉は通じなくてもそれとなく目で挨拶を交わし誰彼となく譲り合い、行列ができるまでもなく皆スムーズに好みの弁当を受け取り、講演会場へ、バルコニーへ、ベランダへ、食卓スペースへ散っていきます。

休憩時間やランチタイムはそれぞれの講演と同じように大切な時間です。
気になる講演をした発表者を捕まえて質問をぶつけたり、友人・知人を紹介し合ったり、あるいはFacebook上での友人と初対面を果たしたりと、皆この時間を有効に活用していました。

文字だけがテーマの国際会議はエキサイティングで熱い四日間でした。来年の ATypI はパリで開催されることが発表になっています。

2020年4月23日、ATypIから以下の発表がありました。
2020年にフランスのパリで開催される予定だった“ATypI Paris”はCOVID-19感染拡大を鑑みて2021年に延期することになりました。 2021年に開催される予定だったATypI Stockholmは2022年に延期することに決定しました。
“ATypI event changes due to COVID-19 pandemic”
https://www.atypi.org/atypi-event-changes-due-to-covid-19-pandemic

* 1) ATypI
https://www.atypi.org

* 2) 日本科学未来館
https://www.miraikan.jst.go.jp

* 3) ATypI 2019 Tokyo プログラム
https://www.atypi.org/conferences/tokyo-2019/programme?day=2019-09-04
https://www.atypi.org/conferences/tokyo-2019/programme?day=2019-09-05
https://www.atypi.org/conferences/tokyo-2019/programme?day=2019-09-06
https://www.atypi.org/conferences/tokyo-2019/programme?day=2019-09-07
以下のリンク先で一部の講演を視聴することができます。
https://www.youtube.com/results?search_query=ATypI+2019+Tokyo

* 4) バリアブルフォント(リンク先は英文です)
https://medium.com/variable-fonts/https-medium-com-tiro-introducing-opentype-variable-fonts-12ba6cd2369

【参照文献】
ATypI の公式ホームページ
https://www.atypi.org

タイトルの「ぬらくら」ですが、「ぬらりくらり」続けていこうと思いつけました。
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ダイナコムウェア コンサルタント
ダイナコムウェア株式会社
コンサルタント
mk88氏

PROFILE●1942年東京都生まれ。1966年桑沢デザイン研究所ビジュアルデザイン科卒。設備機器メーカー、新聞社、広告会社を経て、総合印刷会社にてDTP黎明期の多言語処理・印刷ワークフローの構築に参加。1998年よりダイナコムウェア株式会社に勤務。Web印刷サービス・デジタルドキュメント管理ツール・電子書籍用フォント開発・フォントライセンスの営業・中国文字コード規格GB18030の国内普及窓口等を歴任。現在はコンサルタントとして辣腕を振るう。
Blog:mk88の独り言

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