ダイナフォントストーリー

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2019/10/25

「DynaFont松月虹」開発フォントデザイナー・サンディーインタビュー

ダイナフォント2019年新書体「松月虹」

ダイナフォント2019年新書体「松月虹」
 
「松月虹」は、渡辺美里氏による「ダイナコムウェアフォントデザインコンテスト2013 毛筆部門」最優秀賞受賞作品をデジタルフォント化した書体です。
このたびダイナフォント2019年新書体である「松月虹」のデジタルフォント化を担当したフォントデザイナー・サンディーにインタビューを行いました。
「松月虹」の第一印象について教えてください。
優雅で落ち着きがあり、あか抜けた雰囲気にあふれており、一点一画がスッキリしているので、見た目にも心地の良い書体だなと思いました。墨で書いた時の黒みがしっかりと出ており、全体的にあか抜けた雰囲気にあふれていて、伝統的な楷書体とは一線を画した新しい書体だと思います。

「松月虹」の開発を受けた時はどのようなお気持ちでしたか?また、1年余りに及んだ開発期間中心境に変化はありましたか?
新書体を開発する時は、まず初めに前に開発した書体のイメージを全て捨て去り、新書体だけに集中することが大切になります。確かに開発当初は「松月虹」がコンテストの最優秀受賞作品だったこともあり、フォント化した際に書体の特徴が消えてしまったらどうしようというプレッシャーがありました。
1年余りに及んだ新書体の開発は果てしなく長く感じられましたが、原字がとてもきれいだったので、心から楽しんで取り組むことができたと思います。ちょうど書体を開発していた頃は、道端で看板をみるだけで思わず「松月虹だったらどんな感じになるのだろう」と想像していました(笑)

どのようにして紙に書かれた手書き文字をデジタルフォント化したのですか?また、工夫した点があれば教えてください。
まず初めに字形の特徴を細かく見ていきます。松月虹には他の書体にはないような特徴的なストロークがあるので、1つずつピックアップした上でデジタル化しました。

デジタルフォント化にあたって、書体の個性を把握するために何か行ったことはありますか?
細かいところまでしっかりと観察しました。松月虹には一般的な楷書とは異なる書き方をしている部分がかなりの部分で見られたので、今までの書き方から一旦離れて、この書体の世界観にしっかりと入り込むことにしました。

DynaFontの他の楷書体、行書体シリーズと比べて「松月虹」の最大の特徴とは何ですか?
独特な筆の運び方と力の入れ方が一般的な楷書や行書とは異なっていて、とてもユニークな書体だと思います。例えば、一般的に楷書は起筆に力を入れ、転折部分では一拍置いてから再度力を入れるので、横画、縦画のどちらにおいても起筆、収筆がはっきりとした形となり、力強さが前面に出ます。また、はらいに関しても起筆部分で再度力を入れ、収筆部分に向かって力を抜いていくのが一般的な書き方です。 しかし、「松月虹」は、横、縦画共に自然な丸みがあり、起筆の打ち込みと収筆のトメがはっきりとしていないほか、縦画につながるような脈を意識した右斜めの横画など、伝統的な筆法を覆した書体だと思います。

「撇」(短い左はらい)、「提」(はねあげ)は軽やかでほっそりとしており、見た目にも松葉のようで、「長撇」(左はらい)は起筆に力を入れずにゆっくりと力を入れながら収筆で筆を引き上げて「露鋒」(筆先を見せる)にしています。転折部分はすき間を作ることでまるで風が通り抜けるかのような心地よさを生み出しています。

松月虹をDynaFontの他の楷書体、行書体シリーズと比較

「松月虹」はフォントデザイナーがデザインの段階から手掛けたのではなく、作者の手書き原稿をもとにデジタル化していますが、制作にあたって力を入れた部分についてお聞かせください。
この書体の作者である渡辺氏ご本人もレタリングデザインに携わっているので、原字の段階からデジタル化した際に部首やストロークなどのパーツが出来る限り一致するように配慮されていました。私たちフォントデザイナーは全体の統一感と同時にストロークが揃っているかどうかや、ストロークの融通性、組み合わせやすさなどを重要視しています。作品が提出された際に、渡辺氏にご自身の中で気に入った部首やストロークを選んでいただいていたのですが、フォントデザイナーとして手書きらしさを残したいという想いが強まったので、その他のストロークについても複数取り入れることになりました。
しかし、制限なくストロークを制作するわけにはいかなので、最終的には1から3パターンに絞ることになりました。また、ストロークや部首や点といったパーツを選んで文字として組み立てる時に、文字全体を見て一番合う組み合わせを考えています。例えば、「口」というパーツは口を閉じたデザインと、口を閉じずにすき間を作ったデザインの2種類で制作していますが、これも私たちが実際にストロークやパーツを組み合わせる時にバランスを考えて最適な組み合わせを選んでいます。ストロークのデザインは作り終えたら完成というわけではなく、大抵は完成してから何度も修正を行っています。デジタルフォントを作る際にはストロークのデザインに苦労することも多いですが、一番面白いと思う工程でもあります。

特に好きな筆画はどれですか?中でもどの文字が好きですか?
転折部分にすき間が出来ているところと、横画が右上がりにはね上がっているところが特に好きな部分です。景、凌、非、伴、成、雲、幸、美といった文字は、この書体らしさが存分に表現されていると思うので、漢字の中でも特に好きな文字です。

フォントデザイナー・サンディーが取り上げた松月虹の8文字

松月虹が完成した際の気持ちを教えてください。
コンテストの最優秀受賞作品だと分かった時に、原作者である渡辺美里さまが書いた原字の味わいを表現できないのではないかという不安に駆られ、それがプレッシャーになっていました。そこで、当時は時間をかけてじっくりと原字に目を通し、書体が持つ感情を汲み取りながら筆画や筆遣いに対する理解を深めていきました。1年余りに及んだ開発期間中は、毎日パソコンの前に座って書体と向き合い、文字を眺めながら他の書体とは異なる特徴を探ることから始まり、自分がもし渡辺さまの立場だったらどのようにして文字を書くのかを想像しながらデザインを進めていきました。筆画を選び出し、デジタルデータとして何百もの筆画をデザインする段階から、基本となる文字を完成させるまでの地道な作業の繰り返しを経て初めてフォントの大まかな姿が見えてきます。この段階まで来た時には当初感じていたプレッシャーも少しずつ和らいでいったと思います。 私がフォントを手掛ける上で一番好きなプロセスは、デジタルフォントの規則に基づいて手書きらしい動きを再現するなど、いかにして筆画を最大限に活用していくかを考えることです。
量産に入った段階で、文字を作る際にどの筆画を組み合わせればいいのか分かるようになっていなければなりません。
筆画を活用することは頭を使うので大変ですが、逆に言えば一番面白い部分だとも言えます。フォントを制作することはとても気長で骨の折れる作業が多く、時間がかかるだけではなく、チーム全員の力を合わせなければ完成させることはできません。この書体がリリースされてから皆さんに幅広く使っていただけたら私たちフォントデザイナーにとっても一番の励みになります。

「松月虹」は、ダイナフォント年間ライセンス「DynaSmart」シリーズに収録されています。
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