ダイナフォントストーリー

カテゴリー:連載コラム「ぬらくら」
2019/08/06

ぬらくら第100回 「明朝体の教室」

2019年6月29日、この日で五回目を迎える「連続講座 明朝体の教室」。
主催は「連続講座『明朝体の教室』実行委員会」。
会場は阿佐ヶ谷美術専門学校。
受講定員は120名だが、毎回満席。

講師は自ら書体設計士と名乗る鳥海修さん。
進行と講師への質問に当たるのが、弊社のホームページでも連載コラム「活字の玉手箱」を執筆してくださった書体設計家で活字書体史研究家でもある小宮山博史さん。

『日本で百五十年の歴史を持つ汎用書体としての明朝体は、どのようにデザインさているのだろうか』

を大命題に据え、さらに講座毎に設けられたテーマに沿って、毎回、小宮山さんが鳥海さんに投げる「明朝体を設計するときに起こるであろう問題点や疑問点」と、それに対する鳥海さんの回答で進行して行きます。

この講座が希有なのは小宮山さんと鳥海さんとの間で交わされる丁々発止が、次回の講座会場で印刷物となって頒布されることです。この講演録を手にすれば前回の講座でのお二人の熱いやり取りが、誌上にそのまま再現され図版と共に再確認することができます。

明朝体をデザインするときの実務に即した内容で、毎回テーマが異なるこの教室では「千分の二とか三を移動させてバランスを調整する」という極めて具体的な内容や、漢字の偏と旁のバランスをとる際の留意点など、鳥海さんが書体設計士として蓄積してきた知見やノウハウが惜しみなく開陳されていきます。

第五回までどのようなテーマで講座が進められてきたのか、主催者の了承を頂いたので、以下にその概要を「明朝体の教室」の開催告知案内から引用して紹介します。

【連続講座 明朝体の教室】第一回 2018年11月17日 開講

《漢字》1 錯視の回避
書体にかかわる人々が知りたいと思う造形上の技法は、書体デザイナーの頭の中に蓄積されているだけで、言葉をもって語られること、文章として綴られることはほとんどありません。
この連続講座は、明朝体の漢字・平仮名・片仮名・記号をデザインするとき個々の文字にどのような造形上の配慮・工夫が必要なのかを、鳥海修と小宮山博史が対話と討論をとおして明らかにしようとするものです。
講座の第一回は、格子構造の漢字をデザインするとき、「錯視」をどう処理し、バランスよく見えるようにするかに焦点をあてます。
錯視の回避は漢字書体の優劣と読みやすさに大きくかかわります。
なぜそうしなければならないのか、それは読者への限りない配慮という書体デザインの基本姿勢にほかなりません。

【連続講座 明朝体の教室】第二回 2019年1月12日 開講

《漢字》2 錯視の回避と部分のデザイン
第一回の講座では、「十」の縦線の終筆部をなぜ太くするのか、なぜ「田」の中央の横線を少し上にし、中央の縦線を真ん中にしないのかなど、錯視をいかに回避するのかについて話を進めました。
また、一字の中にある複数の縦線の太さの設定や空間の分割にも話しが広がり、書体デザインの細部にいっそう踏み込む内容になりました。
この連続講座では、あまり解説されることのない明朝体の細部のデザインについて、なぜそうするのかを誰もが納得のできる「言葉」で説明していきます。
今回も引き続き錯視の回避と細部のデザインについて考えます。
このような基礎的なデザイン処理の積み重ねが文字の姿形を左右し、ひいては書体そのものの品質を上げることになるのは言うまでもありません。

【連続講座 明朝体の教室】第三回 2019年3月9日 開講

《漢字》3 錯視が部分のデザインにどう影響するのか
この連続講座では、あまり解説されることのない明朝体の細部のデザインについて、なぜそうするのかを「言葉」で説明しようと考えています。
デザインの技法は、長い修練により自身の体で習得するものですが、そのいくつかが言葉で伝わるなら、後輩たちに記録として残すことができます。
前回まで、縦線と錯視の関係、ハライと縦線が組み合わさったときの問題点、水平に引いた横画が右下がりに見える、などを見てきました。
今回は、横線・縦線・ハライの三種が交差する場合の問題点とその処理、交差するハライが生み出す錯視の回避、縦線と同等の太さを持つ曲線の作り方などを考えます。
講座は部分から全体に話がすすんでいきます。

【連続講座 明朝体の教室】第四回 2019年5月11日 開講

《漢字》4 仮想ボディの中に点画をどう配置するのか
第三回まで、錯視の調整とそれを含む部分のデザインの話をしてきました。
今回からは仮想ボディの中に点画をどう配置するかという話になります。
文字のデザインにおいては、第一画をどこに置くのかが、その文字の完成度を左右するといっても過言ではありません。
「バランス」を崩すとは、第一画目が本来あるべき位置の許容範囲を外した結果、それを調整しようとして他の部分が次々に崩れていくことを意味します。
デザインが難しい漢字を俎上にのせ、それをどう書くべきかを話し合います。

【連続講座 明朝体の教室】第五回 2019年6月29日 開講

《漢字》5 書きにくい漢字はどうデザインすればいいか
前回から、書きにくい漢字のデザインはどうすればよいのかというテーマに入りました。
今回は横線の多い字、縦線の多い字、曲線が主体の字をとりあげます。
仮想ボディの中にこれらの点画を配置し、分割するためには、部分の調整に加えて、文字全体を見据えたデザイン力が必要になります。
秀英明朝を例字に加えて視点を広げます。

第五回の講座の後で、会場を後にする複数の受講者の口から『講演録が一冊の本にならないのかな?』と書籍化を待ち望むような声が聞こえてきました。
この講座のすべてのプログラムが終わった時に、果たして主催者がどのように判断されるのか、『本にしよう』という計画を耳にした気もしますが楽しみなことです。

年内に以下のようにあと二回の開講が予定されていますがテーマは未だ発表されていません。

第六回講座 2019年10月5日(土)
第七回講座 2019年12月7日(土)

受講申し込みは以下のサイトで案内されます。
連続セミナー タイポグラフィの世界
https://visions.jp/b-typography

小宮山博史「活字の玉手箱」
https://www.dynacw.co.jp/fontstory/fontstory_komiyama.aspx

タイトルの「ぬらくら」ですが、「ぬらりくらり」続けていこうと思いつけました。
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ダイナコムウェア コンサルタント
ダイナコムウェア株式会社
コンサルタント
mk88氏

PROFILE●1942年東京都生まれ。1966年桑沢デザイン研究所ビジュアルデザイン科卒。設備機器メーカー、新聞社、広告会社を経て、総合印刷会社にてDTP黎明期の多言語処理・印刷ワークフローの構築に参加。1998年よりダイナコムウェア株式会社に勤務。Web印刷サービス・デジタルドキュメント管理ツール・電子書籍用フォント開発・フォントライセンスの営業・中国文字コード規格GB18030の国内普及窓口等を歴任。現在はコンサルタントとして辣腕を振るう。
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