連載コラム
2018年06月05日

ぬらくら第86回 「ウナギ街道」

千葉県道65号線の山田橋袂にあるT字路の信号を印旛捷水路に沿って下ってゆくと、捷水路の左側に「メタル・アート・ミュージアム光の谷 (* 1)」が見えてくる。

今も2014年12月に休館したままだ。
オーナーであり館長でもある北詰さんの健康が優れないというのが休館の理由。
「閉館」ではなく「休館」と告げられていたので、その内再開されるかもしれない
との淡い期待をもって時々訪れている。

本館左隣の駐車場入口にはチェーンが掛かり、エントランス前の通路はバーが遮って閉館を示している(それにしても閉館と休館がなんとも紛らわしい)。

当然だが駐車場に車は一台も停まっていない。駐車場奥の裏口に回ってみたが人の気配は無い。
念のためエントランスに渡されたバーをくぐって入り口のドアを押してみたが閉まったまま。

メタル・アート・ミュージアムの前の道を左に往くと291号線にぶつかるので、そこを右折する。
左右に印旛沼を眺めながら甚兵衛大橋を渡り、464号線バイパスと成田スカイアクセス線の高架下をくぐる。

464号線バイパスの真下が北須賀交差点で、ここで道は291号線から464号線(旧道/宗吾街道)に変わる。
この街道筋にぬらくら子が勝手にウナギ街道と呼ぶ1.8キロメートルの区間がある。

ここをウナギ街道と呼ぶ所以は1.8キロメートルの区間に七軒のウナギ屋があるからで、その七軒とは甚兵衛大橋から麻賀多神社に向かって「甚兵衛茶屋」、「水産センター」、「又兵衛船形店」、「かどかわ」、「い志ばし」、「錦谷」、「名鳥」の七軒。

以下に各店の印象を纏めた。
店舗やウナギの印象は訪れた日時や当方の体調に左右されていると思われる。
それぞれの店に対するコメントの多寡は必ずしもその店の評価に比例していないことを予めお断りしておく。

【甚兵衛茶屋】

北須賀交差点から500メートル足らずの左手に一軒目のウナギ屋がある。
駐車場の周囲で「自家製そば・うどん」と染め抜かれた幟が強い風にあおられてパタパタいっている。
駐車場の奥の大きな屋根が甚兵衛茶屋で黒光りする瓦屋根が印象的だ。

甚兵衛茶屋1

嘗て蕎麦を食べに入ったことがある甚兵衛茶屋だが「うなぎ」の幟も立っているので再訪する。

カギの手になった店内は外から想像するよりこぢんまりしている。
うな重を頼んでから出てくるまで10分余り、注文してから出てくるまでが早過ぎないか?
……が、ここでは詮索しないことにする。


盆にのったうな重の器が正方形というのは初めてで、小ぶりの蒲焼きが品良く収まっている。
ウナギは直火焼き、舌の上でシッカリ味わえる良さがあるが、この蒲焼きは温和しすぎるタレのせいで印象が薄い。

甚兵衛茶屋2
やはりここは蕎麦が主の店だったか。
嘗て食したざる蕎麦は量が都心のそば屋の2枚分、まともな蕎麦だったがタレがもっと力強ければなお好かった。

【水産センター】

ウナギ街道を挟んで甚兵衛茶屋の真向かいにも広い駐車場があり「水産センター」の看板が見える。
印旛沼漁業協同組合の直営レストランだ。

駐車場の奥に温室のような三角屋根が並んでおり、その先は直ぐに印旛沼に続いている。
三角屋根は国内に数カ所しかないというウナギの養殖場で内部を見学することができる。
養殖場はコンクリート製の大きな生け簀で、その中央でサーキュレーターが水しぶきを巻きあげている。
生け簀のそれぞれには大きさの違うウナギが塊になって泳いでいる。

水産センター1

うな重のウナギは文字通りの産地直送の4Pウナギ。
PはPieceの頭文字で数字が小さいほど身が大きいとメニューにある。

4Pのうな重は岩井の「なかや」や玉造の「玉水苑」のウナギより明らかに肉厚だ。
蒸さずに焼く関西風の直火焼きで肉厚のウナギは歯応えがある。タレは気持ち甘目。

水産センター2

特上うな重のウナギは天然地ウナギの3P、メニューには「ポッカウナギ」と書いてある。
「ポッカ」とはこの辺りの方言で「大きい」を意味し、50センチメートル以上のウナギを指すそうだ。

ここにはナマズやコイ、川エビ、ドジョウもある。
ナマズは日本ナマズで、てんぷらにしても刺身にしてもその白身はもふっくら柔らかくほんのり甘い。

【又兵衛船形店】

右手に広がる水田を見ながら水産センターからワン・アクセル。
600メートル余り走ると右手に「米直売所」の黄色い看板が立っている。その米直売所の先隣が又兵衛船形店。

ウナギ街道を挟んで又兵衛船形店の向かいの丘には「佐倉VOR」が設置されている。
VORはVHF Omnidirectional Rangeの略で、超短波を用いる航空機用無線標識のこと(Wikipediaより)。
この施設で標識局を中心にして航空機がどちらの方向にいるかを知ることができるそうだ。

玉砂利を敷いた広い駐車場と店舗を狭い掘り割りが隔てている。
この街道筋のウナギ屋で唯一入口の前に架かる細い橋を渡って店に入る。

又兵衛船形店1

入口を入ると左側に「又兵衛」と染め抜かれた大きな藍暖簾が掛かっている。
成田山新勝寺の門前にある「又兵衛成田山門前店」は佃煮専門の姉妹店。

お茶と一緒に出された「ウナギのヒレの唐揚げ」で甘口の燗酒が欲しくなった。

座敷の上がり框に置かれたスープストッカーの横に「こだわりの鯉あら汁、ごじゆうにどうぞ」と書いてある。
自家製味噌で米と大豆は成田産、塩は赤穂。これは美味そうだ。

注文のうな重が出てくるまでこれを頂かない手は無い。
甘くも無く辛くも無く、味噌が実に好い塩梅で、口の中で鯉の香りがフワッと上がってくる。

この店はウナギを「蒸して焼く」関東風と「蒸さずに焼く」関西風の両方があり、客の好みを聞いてくれる。
「限定大きめうな重」を注文したら蒸さずに焼く「直火焼き」しかできないという。
注文を逡巡していると女将さんが『未だ店が空いているから蒸してあげましょう。』
そして待つこと30分、もずく蟹の味噌汁と佃煮の小皿が付いてきた。

又兵衛船形店2
出てきた重箱の中のウナギは下の白飯をすっかり覆っている。これはデカイ。

膨らんだ期待は一口目で崩れた。
タレの裏に隠れたほんの微かに滲む生臭さを見つけてしまった。タレが若いのか深みも無い。
折角気持ちの好い店なのに「ウナギのヒレの唐揚げ」も「こだわりの鯉あら汁」も
要らないからウナギでガンバッテ欲しい。

【かどかわ】

又兵衛船形店から300メートル、右手の舗装された駐車場の奥が「かどかわ」。
店内は外の印象よりもずっと庶民的で、カウンター席があったのでそちらに腰を据える。

かどかわ1

駐車場に停まっている車の数からすると店内にはもっと客がいるはずなのに、と思ったら奧座敷があるようだ。

この店のウナギの身はフワフワだが皮は厚く歯ごたえがある。タレは甘くサッパリ系で何か物足りなかった。
かどかわ2

【い志ばし】
ウナギ街道を挟んでかどかわの筋向かいが「い志ばし」。
店の横から裏に回って駐車場に入ると、席が空くのを待つ人たちが群れている。
裏口で整理券を配っているので行列は無い。

手元の整理券の番号を呼ばれて表に回り店に入る。

い志ばし1

ウナギを割くところから焼くところまで客席から丸見えの狭い厨房から、ウナギの焼ける匂いと
濃いタレの匂いが狭い店内に溢れてくる。


ここのうな重はとにかくバランスが好い。仄かに炭の香りがするのも好ましい。
水産センターのうな重を「剛」だとすればい志ばしのそれは「柔」といえるだろう。

い志ばし2

い志ばしはいつ来ても順番を待つ客であふれている。コストパフォーマンスの高いウナギ街道の本命店。
価格も考慮した総合評価なら「い志ばし」に一票はやむを得ないところか。

【錦谷】

い志ばしから300メートル、右手に見える駐車場の奥が「錦谷」。
ここはウナギ街道で一番大きな店で、裏手に大きな養魚池やパットゴルフ・コースを併設している。
看板は川魚料理を謳っている。

錦谷1

店内は広く、ゆったりした大きめのテーブルが並んでいる。
注文して待つこと20分弱、思ったより早く出てきたが、直火焼きだとこんなものなのか。
ウナギの焼き色はきれいで肉も軟らかいのだが、タレは砂糖のような甘さでコクや深みがない。


白飯は粒が立ちハラリとしていてこれは良し。
肝吸いは粉末の出汁を使っているようで碗の底に澱が沈んでいる。
付け合わせの小鉢は甘酢に小さな鰯の南蛮漬けが浮いている。

ウナギの蒲焼きに南蛮漬けはミスマッチだろう、この小鉢は要らなかった。

錦谷2

【名鳥】
「錦谷」から600メートル弱、その間に信号が二つ。左の路肩に並ぶ「うなぎ」と染め抜いた幟が見えてくる。
並ぶ幟の奥が「名鳥」で一番麻賀多神社寄りになる。

名鳥1

元倉庫だったというテーブル席の店内はカジュアル。
厨房はそのテーブル席よりも広いくらいで、訊くと嘗ては生け簀があり鮒や鯉を置いていたのだという。
テーブル席の背後は広い座敷席になっている。

ウナギが出てくるまでの間をドジョウの唐揚げで繋ぐ。

『ビールをください!』
と声をかけると、バイクで来店していることを承知している女将さんが困ったような顔をしている。

『アッ、イヤ、冗談です!』
しかし、このドジョウの唐揚げはやっぱりビールが欲しくなる。


注文してから待つこと25分余り。
ウナギ街道のウナギ屋で初めて上手に蒸して焼いたウナギに出会った。
口の中でホロッと溶けるようなウナギも好い。タレはこの柔らかい身に絡んでちょうど好い甘さだ。
肝吸いは特筆事項なし、それが好い。

名鳥2

以上鰻街道鰻屋七軒身勝手評。
* 1) メタル・アート・ミュージアム光の谷
参照記事「ぬらくら 第49回 私設美術館」はこちら

タイトルの「ぬらくら」ですが、「ぬらりくらり」続けていこうと思いつけました。
ぬらくらは、ダイナフォント News Letter(ダイナコムウェア メールマガジン)にて連載中です。
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  著者 Information

ダイナコムウェア コンサルタント
ダイナコムウェア コンサルタント
mk88氏

PROFILE●1942年東京都生まれ。1966年桑沢デザイン研究所ビジュアルデザイン科卒。
設備機器メーカー、新聞社、広告会社を経て、総合印刷会社にてDTP黎明期の多言語処理・印刷ワークフローの構築に参加。
1998年よりダイナコムウェア株式会社に勤務。Web印刷サービス・デジタルドキュメント管理ツール・電子書籍用フォント開発・フォントライセンスの営業・中国文字コード規格GB18030の国内普及窓口等を歴任。
現在はコンサルタントとして辣腕を振るう。

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