2014年度グッドデザイン賞受賞書体
例えつる草に全身を覆われたとしても、
雨水が枝の一本一本まで浸透し、
釉を塗ったようにキラキラと光輝いていくことだけを求めて
空高く成長していく。 
ストーリーを語る前に、まずは古籍書体シリーズの発想について触れておきます。このシリーズの開発は、フォントデザイナーの「古代」に対する思いからスタートしました。フォントデザイナーは現代において、デザイン上、広告でよくいわれる「精巧な技術」が絶対に求められる存在なのかどうか、また、0と1でできているデジタルフォントでも人の温かみを与えることはできるのではないか考えました。そして古籍を紐解き、しみや汚れ、黄ばんだような古籍を開き、辛抱強く、一文字一文字に秘められた知識を積み上げていったのです。PCがなかった古代では、文人たちは筆を用いてその才能を生かし、知識や情報の伝達も人びとの手によって作られてきました。フォントデザイナーは、古代を現代に活かしたいという思いから、当時の字体のスタイルをデジタル技術によって現在に蘇らせたのです。
DynaFont古籍五書体は、台湾の「故宮博物院」に収録された古籍と復刻版の古籍の出版品から「元豊類稿」「唐百家詩選」「天工開物」「四庫全書」「范伯子集」の五冊の古籍に書かれた文字をベースに開発されたデジタル書体です。当時の文人達が描いた文字への飽くなき姿勢に触発され、完成度を高める為に6年間という開発期間を費やして生まれたこの書体は「古籍書体」という名に相応しい壮大な書体へと仕上がっています。
2014年にはグッドデザイン賞を受賞し、古風な趣が「アジアのデザイン界におけるオスカー賞」の殿堂入りを果たす快挙が生まれました。 
▲「范伯子集」の書帖
古籍黒檀は清代末年の著名な文学家「范当世」(1854～1904)によって創作された詩文集である「范伯子集」をもとに、民間で出版された「浙西徐氏校刻本」で書かれていた復刻版の文字を採用した書体です。
デザイナーが初めてこの書体を見た際に、古典的なイメージに深く引き込まれたほか、その書体の黒々とした文字から、熱帯雨林に生息する黒檀が、雨に打たれながら黒々と輝いている様子が頭に思い浮かびました。
熱帯雨林に生息する黒檀が木材として成長するまでには少なくとも10年の歳月が必要と言われています。古籍黒檀は現代のテクノロジーを駆使したとしても、その開発過程にはデザイナーの巧みな技術が不可欠で、完成に至るまで何年もの歳月を必要とします。范伯子集の文字には、筆画自体に際立った特徴があります。はらいは質実剛健で、力強く、はねはすっきりとしたシンプルなデザインを持っています。さらに、文字の輪郭に彫師が文字を彫った際の痕跡も垣間見ることができました。
その特徴ある文字をデジタルフォント化するにあたり、異なる太さや鮮明でない筆画といった問題が発生しましたが、どのように克服していったのでしょうか。
デザイナーは横画の太さを統一し、平行で一体感のある見た目に仕上げました。字体の大きさ、太さのバラつき、視認性の悪さなどは元の字体のスタイルを厳格に守りながらも自らのインスピレーションと照らし合わせて新しい筆画をデザインしていきました。
古籍黒檀の特長
古籍黒檀は、重心が低く、扁平な字形と重厚なストロークが特徴で、はらいには壮健な息吹が感じられ、まるで彫刻刀で彫った際の痕跡のような質感があり、クラシックさが際立った書体です。
▼古籍黒檀書体見本
古籍黒檀は重厚なストロークで、新聞や書籍などのタイトルに使用することで、タイトルのイメージを存分に引き出すことが出来ます。落ち着いた雰囲気も持ち合わせており、昔ながらの食品パッケージなどにもおすすめです。また、文字にアレンジを加えて、ポスターなどに使用すると、今までとは違ったイメージを作り出すことも可能です。 
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