2014年度グッドデザイン賞受賞書体
空高くそびえ立つ大木の姿を目にしたい。
今も昔も、ずっと変わらず同じ場所で
見守っているから。
蚤の市で角の欠けた琺瑯の焼き物を購入したことはありますか?物によっては完璧ではなくても、長い時間が経過すると、人を惹きつけて止まないような数えきれない程の物語が蓄積されていきます。古籍書体シリーズはこういった「古いものを再生する」という考え方から生まれたインスピレーションを、ハイテク製品などの「ワンパターン」な製品に取り込み、新たに誕生した書体です。では、ベクトル化されたフォントはそれほど高精度なものでなくてもいいのでしょうか?古代の職人たちはパソコンが無かった状況下で、どうやって驚くほど鮮やかな活字を彫り上げたのでしょうか。ダイナコムウェアのデザイナーは各古籍の収集を始め、各地を隅々まで探し回りながら、最終的には台北の故宮博物院と街中で出版されていた復刻版の書籍の中から、5つの字形が美しいものを選び抜き、古典で雅な古籍であった「元豊類稿」「唐百家詩選」「天工開物」「四庫全書」「范伯子集」の5冊の古書から、5年の歳月をかけて開発され、各古書の書体開発は「古籍書体シリーズ」と名付けられました。また、2014年には歴史的な価値があるとして、日本のGood Design Awardを獲得しています。
▲中国明朝の時代に宋応星が書いた「天工開物」の内容見本
古代の彫り師が一字一句、慎重に彫り進めていく様子は、古書から筆画を取りだして再度組み合わせて文字を作成していくフォントデザイナーたちの心情と通じるものがあります。古籍書体シリーズは、数百年前の彫り師が残した手彫りの感覚を守りつつ、デジタルフォントという観点では瑕疵に該当する可能性も考慮した上で、ほんの少し歪に見える曲線の筆画も当時の彫り師が残した技術の痕跡として残すことで、古風で優雅な伝統的な姿を再現しました。
「天工開物」をベースとして開発された古籍銀杏は、明朝の科学者であった宋応星(1587~1663)によって書かれた「天工開物」に刻まれた文字のスタイルを継承しており、文字の重心が高く、千年近く経過した銀杏並木のような雰囲気を持ち、半円形の筆画は繊細で、銀杏の葉のような優雅さを持ち合わせています。文字を読む際に銀杏並木にいるかのような視覚的な美しさを感じることができる書体になっています。
※「天工開物」に関して:
「天工開物」は、1637年(崇禎10年)に初めて刊行されていますが、作者である宋応星は科挙の試験を5回連続で受験しても合格できずにいました。そんなある日、優れた文人が長年研究に没頭しても、生活に必要な食糧やシルクがどこからやってくるのか分からないといった事実に気づき、科挙の試験を諦め、各地を訪問しながら庶民の経済、稲作の研究、製糸、製錬などの技術を観察し、最終的に友人の支援を得て、総合的な科学技術書を完成させたのです。書の内容は、明朝半ば以前の各種技術がまとめられており、刊行後に日本にも伝わり、様々な場面で引用され、幅広く広まりました。
古籍銀杏の特長
古籍銀杏は文字の重心が高く、まっすぐ穏やかで、横画の収筆部分が銀杏の葉のように半円弧を描いています。また、自由自在に広がるような美しく、優雅なはらいが特長です。
▼古籍銀杏 書体見本
おすすめの活用方法
本文での使用に適しており、縦書きの文章に使用すると、古籍で使用されている文字のような雰囲気を添えることが出来ます。 More Information