ダイナフォントストーリー

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2017/07/07

2014年度グッドデザイン賞受賞書体

東風が吹き、大地に草木が芽吹く頃、柳の木々にも春の訪れ-古籍糸柳-

 

東風が吹き、大地に草木が芽吹く頃、
柳の木々にも春の訪れ-古籍糸柳-
皇帝の鶴の一声により、
何千何百余りもの霊魂が長い眠りから目覚め、再び動き出す・・・
全国各地を一気に駆け抜け、
筆写によって、帝国の輝かしい一時代を築き上げたのだ

 
古籍糸柳のもとになった「四庫全書」はその優美で清らかな姿の裏に、10年もの歳月をかけ編集されたという背景があります。三千余りもの古籍は全て手書きで筆写されており、一体どのような経緯で、誰の手によって古籍糸柳が生まれるきっかけとなったのか、その背景を今回のダイナフォントストーリーで紐解いていきましょう!
 
古籍の書風に新たな命を吹き込み、グッドデザイン賞を受賞
このシリーズは、タイプフェイスデザイナーの「懐古的な書風」への想いがきっかけとなり、開発されました。デジタル時代におけるフォントは、広告などで謳われているような「完成されたデザイン」であり、0か1の2択の選択肢のみに感じられるフォントの世界で、もっと人情味のあるものに出来ないか?という思いがきっかけでした。 タイプフェイスデザイナーは、斑に黄ばんだ古籍を一冊ずつめくりながら、一つ一つの言葉に秘められた知識の重さを感じとっていきました。 コンピューターが存在しなかったその昔、文人は筆を用いて才能を発揮し、職人は版刻により知識を広め、情報の伝達は今日までずっと人の手によって刻まれてきました。こうした背景を知り、デザイナーたちは「当時の書風を現代に役立てたい」という思いから、昔の文字をデジタルフォントによって現代に蘇らせたのです。 古籍書体シリーズは、国立故宮博物院と復刻版の古籍の出版品から字形が美しく、古風で煌びやかな書風の書籍であった「元豊類稿」「唐百家詩選」「天工開物」「四庫全書」「范伯子集」の五冊の古籍を選び抜き、様々な苦難を乗り越えながら、5年という歳月を経て、ついに文化的な側面を奥深く反映させた製品として作り上げたのです。 歴史的な価値をフォントデザインに融合させたことにより、2014年にグッドデザイン賞を受賞しました。
2014年グッドデザイン賞受賞
乾隆帝
古籍糸柳を語る前に、まずは乾隆帝の話から始めましょう
古籍糸柳は乾隆帝の勅命により編纂された「四庫全書」をもとに開発されました。「四庫全書」に書かれた文字は文治主義が盛んであった時代を物語っています。 中国の歴史において、乾隆帝の知名度はとても高く、彼を主人公とした小説やドラマも数多く存在し、才気溢れる人物としてだけではなく、詩吟や詩賦に精通した文才として描かれています。
乾隆帝は日頃より、如何にして自国の栄華を顕示していくのかについて思考をめぐらせていました。そこで、堂々たる大国を顕示出来るだけではなく、文化活動に尽力した皇帝自身も納得できる「ソフトパワー」を用いる方法を選びました。 こうして1773年(乾隆38年)、皇帝より書籍の収集が命ぜられ、紀昀(きいん)が総編纂官となり、宮中の役人、学者などによって重要な三千冊余りの古籍が選び出され、校定して写本が作り上げられました。10年近い歳月を経て、ついに中国最大の漢籍叢書である「四庫全書」が完成したのです。
四庫全書
▲≪四書全書≫内容見本
膨大な量の書籍を、一字一句手書きで筆写
全部で三千余りの書籍で構成されている「四庫全書」は、デジタルプリントの時代においても、容易な作業ではありません。当時は書籍の一文字一文字が全て手書きで筆写されており、皇帝が目を通す書物に関しては、いい加減に書くわけにはいかず読みやすいように書風が一致していなければなりません。
一人だけで全ての筆写を行った場合、筆跡は同様になりますが、完成スケジュールが全く読めないというデメリットがあり、現実的には困難です。大勢の人員で完成させる場合は、どのようにすれば書風を統一させることが出来るでしょうか。
「四庫全書」の驚くべき事実として、約3,800名余りもの筆写人員がこの計画に参加している中で、全ての書風が概ね一致している点が挙げられます。
「四庫全書」に書かれた書風の中で「館閣体」が採用されています。字形が美しく、実に整った楷書体として、当時の朝廷における公式の標準書体になっていた書体です。 では、人材紹介サイトなど存在しない時代に、どのように多くの人を集め、一致する書風で筆写をさせたのでしょうか。
「館閣体」は、朝廷における公式の標準楷書体だったため、科挙の最終試験で必須項目となっており、そのため、人材確保を担っていた担当者は、都の役人から候補者を探し出すことができました。また筆写者は人員の名前は、すべての写本の表に記録されていたので、勤務評価をするように比較されたおかげで、写本の品質が保たれたのです。
※「館閣体」について
館閣体は清朝で広く使用されていた公式文書の書体です。楷書の共通性を前面に押し出し、規則を重んじることで、一目見てはっきり分かるような字形が特徴です。 館閣体は優雅ですが、個性的な書体を重視している世界では、多くの人が綺麗過ぎて、個性が無いと感じているようです。
しかし、文字組みといった観点から考えてみると、黒々とした均整のとれた館閣体は、シンプル且つはっきりとしたスタイルであり、本文に適した書体と言えるでしょう。
1千人が残した筆跡と文字への挑戦
タイプフェイスデザイナーに開発当時のことを聞いてみると、その他の古籍書体では、参考資料である古籍の原本の文字が足りていない点が問題でしたが、古籍糸柳においては、8億文字あると言われている「四庫全書」から文字を精粋しているため、その点は問題ありませんでしたが、逆に大勢で筆写されて出来上がっており、完全に書体が一致しているわけではないため、統一感を如何に出すかいう問題点がありました。
その問題は、タイプフェイスデザイナーの長年の経験をもとに、数えきれない文字の中から辛抱強く、最適な字形を選び出し、さらに1文字ずつ分析をしながらストロークを抽出し、現代のデジタル技術を駆使してようやく「四庫全書」の文字をデジタルフォント化しました。その甲斐あって今日においても古代の優雅で芳しい文字の香りを味わうことが可能となったのです。
2014年グッドデザイン賞受賞
古籍糸柳の特徴
古籍糸柳は楷書の字形が細い柳のように生い茂り、豊かな活力を表現しています。特に左はらい、右はらいのストロークが柳の葉っぱのように柔らかく、風に揺られているような印象を与えます。古籍の中でも伝統的な字形を採用することで、古典的な雰囲気を感じることが出来る書体です。 2014年グッドデザイン賞受賞

おすすめの活用方法
古籍糸柳は、動きのあるストロークが特徴的で、手書き風の本文や詩集、文集、また、古典的な雰囲気のタイトルにもおすすめです。


※古籍糸柳は、ダイナフォント年間ライセンス「DynaSmart」シリーズに収録されています。DynaSmartシリーズの詳細はこちら

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