連載コラム
2017年03月24日

ぬらくら 第71回 風

毎年、この時期になると繰り返される会話……

『アッという間に二月、正月は何をしてたんだろう?』
『もう一年の十二分の一が終わってしまったのかぁ。』

そりゃそうです、一ヶ月の長さを分子に置いて、分母にそれまで生きてきた年数(月数)を置けば、分子の一ヶ月は年々小さくなりますからね、当然です。

アッというまの正月でしたが元日の初日の出と初詣、2日の書き初めと初夢、7日の七草粥、11日の鏡開き、15日の小正月と左義長(どんど焼き)、正月の行事は盛りだくさんです。

「一富士二鷹三茄子」は初夢に見ると縁起がいいと言われているものですが、ぬらくら子の初夢は既に遥かかなた、富士でも鷹でも、茄子でもありませんでした。

夢といえばぬらくら子が最近見た夢(初夢に非ず)は、風を切って大都会のビルの谷間をすり抜けて飛んでいる、ちょうどウィング・スーツ(* 1)を着たスカイ・フライヤーがムササビのように飛ぶ、ワクワクするものでした(夢の中では普段着のまま飛んでいましたが……)。

目が覚めて頭に浮かんだのが「飛」ではなく「風」でした。なぜ「飛」ではなく「風」だったのか?
たぶん、夢の中では飛んでいるというよりも風を切っている印象が強かったのでしょう。

ここから漢字の話です。

「飛」も面白い形をしていますが「風」の字も不思議です。
目に見えない「風」の字の中になぜ「虫」がいるのでしょう。
『常用字解』(平凡社/白川静:著)を繰ってみました。

以下は同書からの引用です。

(引用ここから)形声。音符は凡(はん)。甲骨文字は鳥の形。
神聖な鳥であるので冠飾りをつけている。鳳(ほうおう)の元の形と同じである。
その鳥の左や右上に音符の凡を加えている。天上には竜が住むと考えられるようになり、風は竜の姿をした神が起こすものであると考えるようになって、鳳の形の中の鳥を取り、虫(き/竜や爬虫類の形)を加えて風の字が作られ「かぜ」の意味に用いられる(引用ここまで)。

なるほど、虫は竜でした。

念のために『新漢語林』(大修館書店/鎌田正・米山寅太郎:著)で「風」の項を引いてみました。
次のように書いています。

(引用ここから)形声。虫+凡(音)。音符の凡は、風をはらむ帆の象形。
甲骨文は、凡と同形で帆の象形によって、かぜの意味を表した。
篆文の虫は、風雲に乗るたつの意味。この虫を付して、かぜの意味を表す(引用ここまで)。

頬をなでる心地よい微風と家すら押しつぶす暴風、好調な人生の背中を力強く押してくれる追い風と突然人生の行く手を阻むかのような逆風、風の付く熟語は自然現象だけでなく人生の機微に触れるものもたくさんあります。

『新漢語林』には上で引用した説明に続いて、なんと「風」の付く熟語が二ページに亘って収録されています。ちょっと面倒でしたがいくつあるか数えてみると風韻、風雲から始まって御風、信風まで188も収録されていました。

今年も残り後十一ヶ月、読者の皆様に心地よい追い風が吹き続けますように。

* 1 ウィング・スーツ(以下ウィキペディアより)
現代のウイングスーツ (Wingsuit) は、1990年代中頃にフランス人スカイダイバーパトリック・デ・ガヤルドンによって考案された、手と足の間に布を張った滑空用特殊ジャンプスーツである。ムササビスーツと呼ばれることもある。

タイトルの「ぬらくら」ですが、「ぬらりくらり」続けていこうと思いつけました。
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  著者 Information

ダイナコムウェア コンサルタント
ダイナコムウェア コンサルタント
mk88氏

PROFILE●1942年東京都生まれ。
1966年桑沢デザイン研究所ビジュアルデザイン科卒。
設備機器メーカー、新聞社、広告会社を経て、
総合印刷会社にてDTP黎明期の多言語処理・印刷ワークフローの構築に参加。
1998年よりダイナコムウェア株式会社に勤務。
Web印刷サービス・デジタルドキュメント管理ツール・電子書籍用フォント開発・
フォントライセンスの営業・中国文字コード規格GB18030の国内普及窓口等を歴任。
現在はコンサルタントとして辣腕を振るう。
Blog:mk88の独り言

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