連載コラム
2017年02月28日

ぬらくら 第69回 華山で文字を語ろう

会場の周囲はすっかり暗くなり、スタッフが頻繁に出入りしている入り口の周辺だけが、 今夜のプログラムを告知するディスプレイの明かりに浮かび上がっています。

会場に入りきれなかった人たちは、急きょ用意された別室のパブリック・ビューで セッションに参加できることになりました。
改めてこのイベントに集まった人達の多さを感じた次第です。

文字に関するイベントに250人という聴衆が集まるのは台北では初めてのことかもしれません。
日本でも文字に関するセミナーでこれほどの人が集まるのは珍しいことではないでしょうか。

そして全ての聴衆に同時通訳サービスのためのヘッドホンが用意され、どのセッションも言葉の壁を感じることなく聴講することができました。

2016年11月8日、台北市内の華山1914文創園区紅磚六合院西二号館を会場に、ダイナコムウェア台湾の主催で「預見・華山論字/華康字型美學講座(予見・華山で文字を語ろう/DynaFontアートセミナー)」と題されて開催されたセミナーは、五部構成、18時30分から始まり全てのプログラムが終わったのは21時45分、ぬらくら氏が知る限り日本でのセミナーなら、この時刻はセミナー後の懇親会が終わる時刻です。

終了時刻が遅いにもかかわらず台北では文字に関するセミナーが珍しいのでしょう、熱心な参加者は最後まで席を立つ人がありませんでした。そのセミナーの概要を以下に簡単に紹介します。

1.蕭青陽(Xiao Qingyang)*1 /大衆美学における漢字デザイン
こげ茶色のツートーンカラーの野球帽、同じような色をしたTシャツにベージュの パンツ姿で登壇した蕭さんは、一見何処にでもいるオジサン風。その蕭さんが台湾の少数民族の文字に強く惹きつけられ、その民族の子供たちと 時間を共にして忘れ去られようとしている固有の文字を収集してゆく過程を映像 とともに紹介してくれました。 文字が持つ強い文化的側面と民族のアイデンティティーについて熱く語る蕭さんの 左手の甲には、子供が書いてくれたという記号のような文字が刺青のように ビッシリと残っていました。

2.小宮山博史 *2 /明朝体の歴史 ヨーロッパから東アジアへの東漸
白い詰襟シャツの小宮山さんはご自身が主宰する連続セミナー「タイポグラフィの世界」の時と変わらないリラックスした語り口で明朝体活字の来し方をたどります。漢字文化圏で印刷や表示の基本書体とされている明朝体活字はいったい何時・何処で・誰が作ったのか、その秘密を解き明かしてゆく講話でした。スクリーンにはナポレオンの肖像、キリストのイコン、上海美華書館の建物、1868年12月発行「教会新報」に掲載された美華書館活字販売広告などが次々と映し出されていきます。確かなエビデンスに基づいた講和は、正当な漢字文化の継承者を自負する台湾の人たちを戸惑わせるのに十分でした。明朝体活字の原型はフランス人、イギリス人、アメリカ人、ドイツ人が東洋学と布教の目的で作ったもので、上海の北米長老会印刷所「美華書館」に集積されていきます。その明朝体活字は1870年11月、ウイリアム・ギャンブルの手によって長崎にもたらされ、 その後、長崎から東アジアへと広がっていきます。

(休憩)

3.ダイナコムウェア/古代文字復刻への道
台北の故宮博物院に収録されている古籍と復刻版の古籍から「元豊類稿」「唐百家詩選」「天工開物」「四庫全書」「范伯子集」に範をとって開発された古籍五書体の開発秘話が、 ダイナコムウェア台湾のタイプフェイス・デザイナーによって紹介されました。

4.陳映之(Chen Yingzhi)*3 /映像における文字の自由な表現
黒いシャツに黒のジャケット、黒いパンツに黒いスニーカー、黒いキャップを 目が隠れるほど深く被った壇上の陳さんは見るからに神経質というか繊細。彼が手掛けた数多くのミュージック・ビデオの中から、映像に嵌め込まれた文字(スーパーインポーズ)が映像と音楽に同期しながら現れては消えてゆく情感豊かな作例が紹介されました。陳さんは文字のサポートを得ることによって 映像や音楽の表現に更に厚みと奥行きが増すことを繰り返し強調していました。

5.小宮山博史・蕭青陽・王
馥蓓(司会)/パネルディスカッション
プログラムの最後は小宮山博史さんと蕭青陽さんによるパネルディスカッションで タイトルは「デザインにおける美学の奥義」。司会はオグルビー・パブリック・リレーションズ社の王
馥蓓(Wan Fupei)マネージングディレクター。ここでも小宮山さんと蕭さんによって、見落としてしまいがちな文字が持つ文化的側面の大切さが語られていました。
*1 蕭青陽
台湾のアートディレクター。周杰倫、五月天、江
、陳綺貞などの1,000点を超える作品のCDジャケットをデザインしている 台湾で著名なグラフィック・デザイナー/アートディレクター。グラミー賞審査員、インディペンデント・ミュージック・アワード審査員、Unknown Asia審査員。

*2 小宮山博史
佐藤タイプフェイス研究所所長。 書体史研究家。書体設計家。明朝体活字史研究の第一人者。 書体設計では平成明朝体、大日本スクリーン「日本の活字書体名作精選」、 中華民国国立自然科学博物館中国科学庁表示用特太明朝体、韓国サムスン電子フォントプロジェクトなどを制作。 著書、共著に『明朝体活字字形一覧』(文化庁)、『日本語活字ものがたり』(誠文堂新光社)、 『タイポグラフィの基礎』(誠文堂新光社)、『活字印刷の文化史』(勉誠出版)など多数ある。 2010年、竹尾賞デザイン評論部門優秀賞受賞。 阿佐谷美術専門学校講師。印刷史研究会会員。

*3 陳映之 台湾で最も人気のあるミュージック・ビデオ作家。
迅、方大同、莫文蔚、蘇打緑などの作品を手掛けている。第21回金曲賞で最優秀MV賞を、第27回金曲賞では金曲広告賞を受賞している。

「預見・華山論字/華康字型美學講座(予見・華山で文字を語ろう/DynaFontアートセミナー)」は、
ダイナフォントストーリー内の記事「小さな文字に隠された壮大な歴史 その1」でも取り上げています。
小さな文字に隠された壮大な歴史 その1 記事はこちら

タイトルの「ぬらくら」ですが、「ぬらりくらり」続けていこうと思いつけました。
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  著者 Information

ダイナコムウェア コンサルタント
ダイナコムウェア コンサルタント
mk88氏

PROFILE●1942年東京都生まれ。
1966年桑沢デザイン研究所ビジュアルデザイン科卒。
設備機器メーカー、新聞社、広告会社を経て、
総合印刷会社にてDTP黎明期の多言語処理・印刷ワークフローの構築に参加。
1998年よりダイナコムウェア株式会社に勤務。
Web印刷サービス・デジタルドキュメント管理ツール・電子書籍用フォント開発・
フォントライセンスの営業・中国文字コード規格GB18030の国内普及窓口等を歴任。
現在はコンサルタントとして辣腕を振るう。
Blog:mk88の独り言

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