連載コラム
2016年08月05日

ぬらくら 第63回 字が読めないということ

成人してからも視力が左右とも1.5が自慢だったぬらくら子も、パソコン相手に仕事をするようになってから急速に視力が落ち、気づくと近視に乱視が重なり、今や加齢による老眼まで加わってしまいました。

もちろん、仕事をする時は眼鏡の世話になります。その眼鏡も数が増える一方です。
机を離れるとうっとうしいので眼鏡を外してしまいます。

居酒屋で。
品書きを開いてどんな酒や焼酎が置いてあるのかな? その前に鞄から眼鏡を出す?
面倒だから適当に『上から三番目のやつお願いします。』

映画館の切符売り場で。
席はどの辺りがよろしいですか? その前に鞄から眼鏡を出す?
面倒だから適当に指さしながら『この辺りをお願いします。』

コンビニエンス・ストアで。
似たような包みだけど中身はどう違うんだろう? その前に鞄から眼鏡を出す?
面倒だから適当に掴んでレジへ。

街中のサービスを利用しようとすると必ず文字が顔を出します。その文字を読む必要に迫られる度に不便を強いられるぬらくら子です。
遠近両用眼鏡も持っているので、普段からその眼鏡をかけていればいいのでしょうが、それが面倒です。単なる我が儘といわれても仕方がないのですが、それでは話が進まないので眼鏡を掛ける・掛けないは一先ず脇において話を進めます。

文字が読めない原因には「その文字を知らなくて読めない」以外に様々な要因が考えられます。

ロービジョン(Low Vision)という言葉があります。
もちろんテレビ放送のハイビジョンとは関係ありません。目が全く見えないわけではなく「見えにくい」ために日常生活に困難を感じることを言い、弱視とか低視力ともいいます。

学習障害という言葉があります。
LD と表記されることが多いようで、一昔前なら Laser Disk のことを差すのでしょうが、 Learning Disabilities のことです。
文部科学省が約10年を費やした調査研究の結果、導き出した「学習障害」の定義があります。

学習障害 (*1)
(文部科学省調査研究協力者会議1999年7月)
学習障害とは、基本的には全般的な知的発達に遅れはないが、聞く、話す、読む、書く、計算する又は推論する能力のうち特定のものの習得と使用に著しい困難を示す様々な状態を指すものである。
学習障害は、その原因として、中枢神経系に何らかの機能障害があると推定されるが、視覚障害、聴覚障害、知的障害、情緒障害などの障害や、環境的な要因が直接の原因となるものではない。

ディスレクシアと言う言葉があります。
Dyslexia と綴ります。日本語では読み障害とか読み書き障害と書かれるようですが、最近は読字障害と書かれることが多いようです。

米国精神医学会(American Psychiatric Association)が編集した DSM - 4(Diagnostic And Statistical Manual of Mental Disorders Edition 4/精神障害の診断と統計マニュアル第四版)はディスレクシアを以下のように定義しています(2013年に発表された DSM - 5 では定義し直されているようです)。

ディスレクシア(読字障害)
1. 読みの正確さと理解力に対して個別に行った検査の結果が、被験者の実年齢、知能、教
育程度から期待されるものよりも十分に低い。
2. 上記の障害が読字能力を必要とする学業成績や日常の活動を著しくに妨害している。
3. 感覚器の欠陥が存在する場合、読みの困難は通常それに伴うものより過剰である。

いよいよ4月1日から障害者差別解消法 (*2) が施行されます。
この法律は民間および公共施設に対して、障害を理由とする差別の解消、合理的配慮の義務もしくは努力義務を求めています。
この法律が施行される4月1日以降は、教育機関や図書館なども障害者(視覚・学習等)に対して同様の対応が求められるようになります。

昭和45年に制定された障害者基本法 (*3)の第4条で既に障害者差別の禁止を謳っていますが、障害者差別解消法はさらに踏み込んで、社会全体がこのことに取り組む義務と責任があることを示しています。

障害者差別解消法は、上に挙げた様々な理由で『文字を読むことに困難を覚える人達が文字を読めないのは、個々の障害をその理由として捉えるのではなく、それらの人達に対応した仕組みができていない社会の問題である、として捉える。』という新たな視点を示しているのではないでしょうか。

(*1) 学習障害
文部科学省/特別支援教育について/学習障害児に対する指導について(報告)
https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/tokubetu/material/002.htm

(*2) 障害者差別解消法
正式名称は「障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律」
https://www8.cao.go.jp/shougai/suishin/law_h25-65.html

(*3) 障害者基本法
https://www8.cao.go.jp/shougai/suishin/kihonhou/s45-84.html

【参考資料】
『出版のユニバーサルデザインを考える』
出版UD研究会 編 有限会社 読書工房発行 2006年

タイトルの「ぬらくら」ですが、「ぬらりくらり」続けていこうと思いつけました。
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  著者 Information

ダイナコムウェア コンサルタント
ダイナコムウェア コンサルタント
mk88氏

PROFILE●1942年東京都生まれ。
1966年桑沢デザイン研究所ビジュアルデザイン科卒。
設備機器メーカー、新聞社、広告会社を経て、
総合印刷会社にてDTP黎明期の多言語処理・印刷ワークフローの構築に参加。
1998年よりダイナコムウェア株式会社に勤務。
Web印刷サービス・デジタルドキュメント管理ツール・電子書籍用フォント開発・
フォントライセンスの営業・中国文字コード規格GB18030の国内普及窓口等を歴任。
現在はコンサルタントとして辣腕を振るう。
Blog:mk88の独り言

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