連載コラム
2015年04月24日

ぬらくら 第53回 ブラック・レター体(その1)

The New York Times、言わずと知れたニューヨークに本社を置く新聞です。
ぬらくらコーナーを読んでくださっている皆さんなら、この新聞の題字を 一度くらいは何処かでご覧になったことがあると思います(*1)。

この題字に使われているゴツンとした黒っぽい書体は「亀の甲文字」とか 「ドイツの髭文字」、「ドイツ文字」、時には「ゴシック体」と呼ばれる こともある書体です。
書体分類上は「ブラック・レター体」に属する書体です。

何故このような読みにくい書体が生まれたのでしょう。

時は九世紀の初め、ヨーロッパに起こったカロリンガ王国(*2)の シャルルマーニュ王(Charlemagne/748-814)(*3)の時代に跳びます。

シャルルマーニュ王は軍事・行政・司法・財政を整えて州制をひき、 中央集権国家を作り上げます。
そして民衆教化策を推し進めるために教育改革の指導者としてアルクイン (Alcuin/735-804) を選任します。

アルクインは王の委託を受けて次のことに取り組みます。

1.文法を改定すること
2.正確な聖書を残すこと
3.教会関係機関からの出版物の筆記体を標準化すること

そして標準筆記体として考案されたのが「カロリンガ書体」と呼ばれる 小文字(カロリンガ・ミナスキュール/Carolingian Minuscule)でした。
同時に、文中における大文字の使い方を明確にすると共に、この小文字に 四世紀から五世紀頃に現れた「ラスティック・キャピタル(Rustic Capital)」 という走り書きのような大文字を採り入れ、聖書や教科書のための筆記体が 統一されていきます。

カロリンガ書体は、以降二つの道を進みます。
その一つは「ぬらくらコーナー2015年3月16日号/トラヤヌス帝の碑文(3)」 で取り上げたローマン体への道です。 記事はこちら

もう一つが本稿で取り上げているブラック・レター体への道です。

九世紀、十世紀、十一世紀と時代を経る毎に、カロリンガ書体は様式化が進み、 文字幅は圧縮され、その形は重く黒々した表情を持つようになります。
この重く黒々とした表情が、後にブラック・レター体と呼ばれるようになる書体の特徴になります。

十二世紀に入ると文字幅はさらに狭くなり、この傾向は十五世紀まで続きます。
こうして重く黒々としたカロリンガ書体は、キリスト教関連の書籍に対して 権威を与えるのに効果的な荘厳さを持つようになります。
さらに、文字幅を圧縮して狭くしたことにより、写本を作るときに一ページに書き込める文字の数が増えて、結果的に一冊のページ数を節約することができる というメリットも生まれました。

ブラック・レター体はミサ典書や祈祷書、礼拝書などに用いられ、ドイツ、 フランス、イギリスの教会で重用されて急速に普及してゆきます。

十一世紀から十二世紀にかけて、その書法の様式が固まりつつあったカロリンガ書体は、 各地の写字生(スクライブ)によって、それぞれに地域的な特徴が加えられていきます。

…以下、次号「ブラック・レター体(その2)」へ続く。


*1 The New York Times
https://www.nytimes.com/

*2 カロリンガ王国
カロリング王国はピピン三世が開いたフランク王国二番目の王朝。
フランク王国は五世紀から九世紀にかけて西ヨーロッパを支配したゲルマン系の王国。
その版図は今日のドイツ・フランス・イタリア・スイス・オランダ・ベルギー・ルクセンブルクに及んだ。

*3 シャルルマーニュ王
フランク王国の国王(在位:768年-814年)で、カール大帝のこと。
カロリング朝を開いたピピン三世の子でカール一世とも言う。 800年には西ローマ皇帝(在位:800年-814年)を号した。

【参考資料】
『欧文書体百花事典』 組版工学研究会編 株式会社 朗文堂発行 2013年
『欧文書体 その背景と使い方』 小林 章 著 株式会社 美術出版社発行 2005年
タイトルの「ぬらくら」ですが、「ぬらりくらり」続けていこうと思いつけました。
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  著者 Information

著者
ダイナコムウェア コンサルタント
mk88氏

PROFILE●1942年東京都生まれ。
1966年桑沢デザイン研究所ビジュアルデザイン科卒。
設備機器メーカー、新聞社、広告会社を経て、
総合印刷会社にてDTP黎明期の多言語処理・印刷ワークフローの構築に参加。
1998年よりダイナコムウェア株式会社に勤務。
Web印刷サービス・デジタルドキュメント管理ツール・電子書籍用フォント開発・
フォントライセンスの営業・中国文字コード規格GB18030の国内普及窓口等を歴任。
現在はコンサルタントとして辣腕を振るう。
Blog:mk88の独り言

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